| EN |

ヤノベケンジ:アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 6月 07日

《アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ》2000年 | H180×W420×D148cm | (インスタレーションサイズ:会場により可変)| 写真、プラスティック、ガイガー・ミュラー管、他 | Copyright© Kenji YANOBE | 画像提供:山本現代

今展では、2000年に制作された「アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ」を中心に、1997年にヤノベがチェルノブイリをおとずれた際の記録を作品化した「アトムスーツ・プロジェクト:チェルノブイリ」ライトボックスシリーズを展示致します。

「アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ」は、空間の放射線を視覚化したインスタレーション作品です。ガイガー・アンテナを持つ数体のアトムスーツ人形が放射線をキャッチし、作品中央には空也上人像を模した等身大のヤノベケンジ人形が佇んでいます。人形は、1997年にチェルノブイリを訪れた際に着用した放射線感知服と同型の「アトムスーツ」を纏い、その口元からは6体のアトムスーツ人形が吐き出されています。

ヤノベの代表作である「アトムスーツ」は、放射性物質による人体表面の汚染と体内被爆から人体を防護するための必要最低限の機能を備えた特殊な全身スーツです。表面は付着物質をすぐに除染できるウォータープルーフ素材でできており、眼球、生殖器、臓器など重要器官部にガイガー・ミュラー・カウンターが装着されています。90年代、「終末世界」を生き残るために制作された“サヴァイバルマシーン”の重量化から脱却するために作られた身軽なこのスーツは、ヤノベを「妄想」の世界から旅立たせ、「現実」に立ち向かわせた重要な作品でもあります。

また、この人形のモデルとなっている空也上人とは、平安中期に貴族だけのものとされていた仏事の慣習を破って民衆とともに生き、彼らの救済に努めた僧であり、ヤノベはアーティストとしての自分のあり方を上人に重ねあわせて考えました。

ヤノベケンジ
1965年大阪生まれ。1991年 京都市立芸術大学卒業。大阪万博跡地で幼少を過ごした体験から「未来の廃墟への巡礼」をコンセプトに、終末的な環境で使用するための機械彫刻を数多く制作、発表する。

1990年生理食塩水を入れたタンクの中へ鑑賞者が浸かり瞑想する体験型作品「TANKING・MACHINE」を発 表(金沢21世紀美術館所蔵)。同年第一回キリンコンテンポラリーアートアワード(KPO キリンプラザ、大阪)最優秀作品賞受賞。

1997年に放射能感知服「アトムスーツ」に身を包み原発事故後のチェルノブイリを訪問。居住禁止区域 に住む人々との出会いに大きな衝撃を受け『アトムスーツ・プロジェクト』を開始、大阪万博跡地を中心に 同プロジェクトを展開した。その後21世紀の幕開けとともに制作のテーマを「現代社会におけるサヴァイ ヴァル」から「リヴァイヴァル」に転換させ、精力的に活動を続けている。

2003年には国立国際美術館(大阪)にて集大成的展覧会『メガロマニア』を開催。2004年金沢21 世紀美術館にて半年間の滞在制作『子供都市計画』を経て、2005年『キンダガルテン』豊田市美術館(愛知)、2009年『ウルトラ』豊田市美術館(愛知)、2010年『ミュトス』発電所美術館(富山)など、既成のアートの枠組みを超えた壮大なスケールの作品を展開し続けている。

その他主な個展に1991年『ヤノベケンジの奇妙な生活』キリンプラザ大阪(大阪)、1992年『妄想砦のヤノベケンジ』水戸芸術館(茨城)、1998年『史上最後の遊園地』キリンアートスペース原宿(東京、他巡回)、2003年「アトムスーツ -サヴァイヴァル・リヴァイヴァル」北九州市立美術館(福岡)、2007年『トらやんの世界』鹿児島県霧島アートの森(鹿児島)など。

主なグループ展に1992年『アノーマリー展』レントゲン藝術研究所(東京)、1998年『日本ゼロ年展』水戸芸術館現代美術センター(茨城)、2000年『ギフト・オヴ・ホープ』東京都現代美術館(東京)、2004『六本木クロッシング』森美術館(東京)、『アートがあれば』東京オペラシティギャラリー(東京)、『崩壊人体』ヤマモトギャラリー(東京)、2005年『リトルボーイ』ジャパン・ソサエティ(ニューヨーク)、2007年『《生きる》-現代作家9人のリアリティ』横須賀美術館(神奈川)、2008年『Heavy Light: Recent Photography and Video from Japan』ICP(ニューヨーク、アメリカ)、『Manga! Japanese Images』ルイジアナ現代美 術館(スウェーデン)、2009年『Twist and Shout : Contemporary Art from Japan』バンコク芸術文化セ ンター(タイ)、2010年『2010 釜山ビエンナーレ』釜山(韓国)、『MADE IN POPLAND』韓国国立現代美術館(ソウル)など。

主なパブリック・コレクションに、広島市現代美術館、ガレリア・ダルテ・モデルナ・ディ・ボローニャ、金沢21世紀美術館、熊本市現代美術館、ルイジ・ペッチ現代美術センター・プラト、国立国際美術館、豊田市美術館、東京都現代美術館、大原美術館、兵庫県立美術館がある。

全文提供: 山本現代


会期: 2011年7月2日(土)-2011年7月30日(土)
会場: 山本現代

最終更新 2011年 7月 02日
 

編集部ノート    執筆:田中 みずき


《アトムスーツ・プロジェクト:大地のアンテナ》2000年
Copyright© Kenji YANOBE
画像提供:山本現代

1997年から自作の放射線感知服「アトムスーツ」を使って作品を生み続けてきたヤノベケンジの展覧会。口から六人の阿弥陀が現れる姿を象った《空也上人立像》(康勝作、六波羅蜜寺蔵、鎌倉時代)を模したアトムスーツ着用の作家像のインスタレーションや写真、オブジェなどが展示されている。3.11以後の今、改めて向き合いたい展示である。

中でも、作者がアトムスーツを着てチェルノブイリを訪れた際に、現地の人との交流を記した日記調のドローイングが、小作品ながら強く心に訴えかけてくる。ドローイングには、多くの人々が普段通りの生活を営んでいるなか、部外者として訪れたヤノベに現地の人々がどのように接したのか、(チェルノブイリ原発事故の)現状を知っているがゆえに、土地の人々の明るさに同調できない作者のとまどい、部外者としての存在を指摘されたことで生じる自分への問いかけなどが書かれているのだ。現在、私たちは皆、現地の人でもありアトムスーツを着たヤノベでもあるのかも知れない。

作者の行動と思考と合わせて、改めて作品を読み解いていきたくなる展覧会である。


関連情報


| EN |