【キュレーターコメント】風に吹かれて -高橋瑞木 本来なら、今回は第6回目のRe-Fortを元にした展覧会が開催されるはずだった。Re-Fortとは、下道が2004年よ り断続的に開催している、美術家や建築家など複数の参加者とともに、砲台跡や掩体壕といった戦争遺跡を再利用してイベントを行うアートプロジェクトのことだ。重い歴史を背負いながらも日常の風景に埋もれてしまっている戦争遺跡でイベントを発生させることで、戦争の記憶に対する私たちのリアリティを浮き上がらせ、問いを投げかける。そんなプロジェクトであり、作品だった。
冒頭に「はずだった」と書いたのは他でもない、3月11日に おこった地震と津波、そして原発事故によって、Re-Fort 6の実現が頓挫してしまったからである。下道は今年の3月にαMで過去5回のRe-Fortの記録を紹介しながら6回目の参加者を募り、今回の展示に向 けて6月にこのプロジェクトを実施する予定だった。プロジェクト中止には時間や物理的な理由が当然関係しているが、下道の心境の変化がやはり一番の要因だ。見知らぬ土地で大勢を集めて行うアートプロジェクトは、今彼がやることではなかった。
おそらく、今回の震災や原発事故を境に無数の「はずだったこと」が生まれた。では、喪失の誕生からひとは何を創造することができるのだろうか?
本展の会期中、下道は地震の後に購入した小さなバイクで日本国内を旅し、そこで出会った風景をギャラリーに置いてあるプリンターに随時送信する。プリンターから出力される風景は、下道からの投瓶通信であり、3月11日以前と以後、自分と世界の間を少しずつ繋げていこうとするアクションだ。まず、自分ひとりでできることからはじめる。速度を落としながら、移動する。そして、ていねいに自分の周囲を見回してみる。風はどちらの方角から吹いてくるだろうか?明日は雨だろうか?そんなささやかすぎる問いすら、少し意味が違って聞こえる日々の中で。
【作家コメント】風景の再起動 -下道基行 私たちの目の前に拡がる景色は、漠然と見ていればただの「眺め」にしか過ぎないが、そこに何かを発見し、読み取り、切り取ることで「風景」へと変わる。つまり、まなざしではなく、景色の中に分け入る能動的行為が「眺め」を「風景」へと転換するのだ。風景を題材としたイメージは巷にあふれ、雑誌やモニターの中で私たちは日々無数の風景と出会うことができる。しかし、作家が実際にその風景に自分の身体を晒しながら瞳の奥に潜むレンズでそれをスキャンし、そこに内包される歴史や構造を解きほぐすことで、風景は新たな扉を開いてゆく。しかし、いまだ扉の先に道はない。あるのは作家が時には迷い、ときには断固として灯してゆく道明かりだけだ。新たな色彩とレイヤーの灯火は、どんな地平に私たちを導くのだろうか。
絵描きを目指して大学へ入ったけど、写真を撮るようになった。 絵は好きなんだけど、自分で描くよりも描かれた絵を見る方が好きだ。 自分で作り出すというより、観察して記録して集めていきたいんだと思う。 自分自身のリアリティが日々変化していることもあるし、この数ヶ月、自分に何ができるか/やりたいか/見せられるかを考えた結果、オーソドックスに風景を記録して並べて行く写真展に立ち返ろうと思った。 風景はすぐに失われて行くし変化するもので、自分の目で見たいし出会いたいから。 野草を探し描かれた植物図鑑ように、道端に点在する些細な人の生活を旅をして見つけ撮影して集めて、図鑑のような写真展を行いたい。 装備は、バイク(HONDA CT110)+デジカメ(canon 5d markⅡ)+PC(MacBook)+wifi(EMobile)。
旅はすでにはじまっていて、このブログにアップを開始しています。 http://www.m-shitamichi.com/
下道基行 したみち・もとゆき 1978年岡山県生まれ。2001年武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。2003年東京綜合写真専門学校研究科中退。2005年、日本全国に残る軍事遺構を探し撮影した「戦争のかたち」を出版。日本全国で放置されている戦争の遺構を使い、イベントを起こしながらそれを記録していく「Re-Fort」のほか、「日曜画家」、「旅をする本」など多数のプロジェクトを行う。
全文提供: gallery αM
会期: 2011年7月9日(土)-2011年8月13日(土) 会場: gallery αM アーティストトーク: 2011年8月13日(土)15:00 - 16:00
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