| EN |

東信:adidas Plants Exhibition
レビュー
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2009年 10月 29日

fig. 2 「東信 adidas Plants Exhibition」(adidas Plantsハウス)外観|画像提供:アディダス ジャパン

fig. 1 「東信 adidas Plants Exhibition」(adidas Plantsハウス)外観|画像提供:アディダス ジャパン

    世田谷区桜丘のとある一画にそのビニールハウスはある[fig. 1]〜[fig. 3]。と言っても食物としての野菜や果物を栽培している農家のそれではない。植わっているのはパキラやレモン、ミカンの木等であり、天井からは数多くの鉢植えが吊るされている[fig. 4]。その所々にadidas Originalsのスニーカーやジャージがアクリルケースに入り、中には地中に埋まっているものまである。そう、それはadidas Originalsのクリエイティブ・プロダクトマネージャーを務める倉石一樹プロデュースの下、東信が制作したビニールハウスであり、展示されているスニーカーやジャージは東のアイデアを反映した同ブランドの新作にほかならない。本展覧会はその発表会である。

    アパレルの展示会というものに初めて足を運んだが、さて新作をアクリルケースはともかく地中に埋めてしまうということはアリなのだろうか?泥にまみれ、汚れ、かつその全貌が見えず一部しか顔を覗かせていないスニーカーを見るとそんな思いがよぎる。そしてよく考えなくてもそれが通常のアパレルの展示会であれば即却下であろうと考え至るが、しかし今回のデザインが〈自然〉の要素を積極的に取り込んだものである以上、土に埋まるということはまったく〈自然〉のようにも思われる。

fig. 4 「東信 adidas Plants Exhibition」(adidas Plantsハウス)展示風景|画像提供:アディダス ジャパン

fig. 3 「東信 adidas Plants Exhibition」(adidas Plantsハウス)外観|画像提供:アディダス ジャパン

    白が基調のジャージには左胸にグリーンの三つ葉ロゴに植物をモチーフにしたワンポイントのデザインが施されており、それは地中に根を張る植物、ひいては私たちの周囲の自然環境にまで想像を巡らせる。たとえ都会がコンクリートジャングルと言われようと、そのコンクリートやアスファルトを突き破るような植物の強さを、あなたは目にしたことがないか?すなわちその下には土があり、私たちはたとえ自然豊かな土地に住まずとも、その恩恵を受けて自然に比べればはるかにかよわい生命を日々繋いで生きている。ワンポイントの小さなマークは、着るないし履くという、すなわち身につけることによってささやかだがそんな事実を思い起こさせるものだ。

    その日履いて行ったadidasの、購入して一年ほど経つスタンスミスはまったく洗っていないから随分汚れてくたびれてきていて、けれどもそれは自分がその靴でアスファルトの大地を確かに踏んで生きている証である。私たちが住む世界は今やクリーンで無菌な生活を目指し進んでいるように思えるが、土の匂いや手触りを忘れずに生きたいものだと思う。東のそれに限らずいつでも仮設でしかない展覧会から、一つでも生(なま)の感情が生まれ心に突き刺さればそれはこの上なく幸運なことだろう。

最終更新 2010年 7月 05日
 

関連情報


| EN |