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Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ
レビュー
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2009年 8月 10日

fig. 1 「Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ」(軽井沢メルシャン美術館)展示風景|画像提供:軽井沢メルシャン美術館

fig. 2 「Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ」(軽井沢メルシャン美術館)展示風景|画像提供:軽井沢メルシャン美術館

fig. 3 「Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ」(軽井沢メルシャン美術館)展示風景|画像提供:軽井沢メルシャン美術館

    「Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ」。そう名づけられたメルシャン軽井沢美術館での企画展は、軽井沢だからこそ成立する展覧会である(2009年4月18日〜7月10日)。展覧会が「もうひとつの森」を見せるものである以上、鑑賞者は通常の〈森〉の姿を見知っている必要がある。オリジナルを知らずしてその翻案を楽しむことは難しい。つまり私たちは展覧会を見る前にまず森の空気や音や匂いを肌で知っていなければならなかったのだが、そもそも軽井沢は寒冷地であるが自然豊かな土地であり、美術館も周囲に木々が繁る立地にある。訪れる人は誰しもその中を通るため、(それだけではいささか心もとないものの)、自ずと〈森〉の予習がなされるのである。都心の美術館ではこうはいかないという点で、軽井沢ならではの展覧会だ。

    graf medeia gmの企画による本展は、三沢厚彦、マイ・ホフスタッド・グネス、津田直、佐々木愛の四名の作家からなる。キュレーションを務めた工藤千愛子がカタログで述べているように、企画の起点となっているのが動物の木彫彫刻で知られる三沢の作品である。ノミで荒々しく作り出される彫刻のモチーフは実在の動物から架空のユニコーンまで様々であり、それらが天井から下げられたドレープ状のカーテンで仕切られた空間の中に時に堂々と、時にさりげなく配置されていた。ただし空間構成を手がけた豊嶋秀樹(graf medeia gm)は、一般的なグループ展と異なり、作家毎に空間を区切るということをしなかった。たとえば津田直のドイツの森に取材した写真≪See Bach #5≫≪See Bach #6≫≪See Bach #7≫≪See Bach #8≫(すべて2009年)が吊られている中に三沢のミミズクが[fig. 1]、マイ・ホフスタッド・グネスの植物の生長を描いた映像作品≪Imagining how plants grow≫(2002年)を流す小屋の中に三沢の小熊が展示されるなど[fig. 2]、越境的な展示が行なわれていたことが本展の特徴である。佐々木は例外的に壁一面を利用し、ウェディングケーキ飾りの素材の砂糖を使ったインスタレーション≪ここからのその先≫を制作[fig. 3]。さながら壁画であり、展開されているのは巨大な木が生い茂るイメージだが、白の重なりは重厚でありながら軽やかで空間に清涼感を与えていた。

    さらに三沢の作品が、美術館内だけではなくミュージアムショップや館外にまで進出していることにも注目したい。ショップの天井には鳥が飛び、庭園に作られた小屋の中には熊が佇み、美術館出入り口外にはウサギがちょこんと立っている。作品保護の観点から言えば危険があるが、以上の作品については記念撮影も可能であり、土地柄観光客の多い美術館であるだけにこういった取り組みは多いに評価したい。何より先に越境性が本展の特徴であると述べたように、それは作家ないし作品相互の越境だけではなく、美術館の外部と内部との、すなわち人工と自然との越境をも意味している。「もうひとつの森」は、一つの展覧会として構成されながら、押し付けがましく一つのイメージだけを投げかけない。だから私たちは現実と仮想を行きつ戻りつ、想像の森へと足を踏み入れることができるのである。

参照展覧会

展覧会名:Take me out to the Wonder Forest もうひとつの森へ
会期:2009年4月18日~2009年7月10日
会場:メルシャン軽井沢美術館

最終更新 2015年 10月 24日
 

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