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東信:Distortion×Flowers
レビュー
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2009年 7月 20日

fig. 2 「Distortion×Flowers」(EYE OF GYRE)展示風景|インスタレーション
画像提供:AMKK
Copyright © Makoto AZUMA

fig. 1 ≪Distortion×Flowers≫ 2009年|インクジェットプリント、フォトアクリル加工|150.0×225.0×4.3cm
画像提供:AMKK
Copyright © Makoto AZUMA

    今は花屋を営みつつも、東信がそもそもロックバンドでのデビューを目指し福岡から上京したことを知るものにとって、今回の「Distortion×Flowers」(EYE OF GYRE、2009年5月15日〜6月7日)は待ちに待った展覧会と言えるのかもしれない。東は「音の歪み」を花で表現しようと、音響効果を与えるために使用される音楽機器、エフェクターを花と組み合わせた。

    会場は東の相棒である椎木俊介による写真が多くを占め、一つのエフェクターから発せられる音色をイメージして花を組み合わせた写真作品≪Effector×Flowers≫25点と、それらをパノラマ状に横並びにした作品4点、さらに、分解し、機械部分だけを剥き出しにしたエフェクターを中央に配し、色とりどりの花々を敷き詰めた巨大な写真1点[fig.. 1]。くわえて、同様に分解したエフェクターを透明のアクリルケースに入れ、さらに試験管を取り付けることでささやかながら保水機能を持たせた花器(しかし本格的な花器として使えるものではもちろんない)≪Distortion vase≫4点と、エフェクターと楽器が置かれ、その上でライブパフォーマンスも展開された花を用いたインスタレーション[fig.. 2, 3]。床置きで展示されている初日の午前中に東ら三人が行ったライブのヴィデオから明らかなように、元々は整然としていた花々はライブが進むにつれてそのかたちや色彩を失ってゆく。会期中のインスタレーションからはそのさらなる変化を見ることができ、隅々まで神経が研ぎ澄まされた写真と、一方で抜けの要素もあるインスタレーションや≪Distortion vase≫の対比が心地よい。

fig. 4 ≪Effector×Flowers series≫より「Degital Delay」2009年|インクジェットプリント、フォトアクリル加工|エディション5
33.0×22.0×3.2cm
画像提供:AMKK
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fig. 3 「Distortion×Flowers」(EYE OF GYRE)展示風景、インスタレーション
画像提供:AMKK
Copyright © Makoto AZUMA

    告白すれば、エフェクターを使う経験のないわたしにとって、名前や色彩が異なってもその機器からどのような音が発せられるのか、間近で、しかも個別で使われている様子を見ないかぎりまったく想像がつかない。しかし今回の作品がそれらと花々を組み合わせた展覧会である以上、その音色を想像する一助となるのはまさしく花々である。

    たとえば、白いボディに青色の文字が爽やかな「Degital Delay」[fig.. 4]に組み合わされている紫色の藤とアヤメからは優美な音を、青色を基調にした設えの「SUPER Shifter」[fig.. 5]に組み合わされている芍薬からは研ぎ澄まされた刹那的な音を想像させる。あるいは黒いボディに白抜きの文字が強いインパクトを与える「SUPER Octave」[fig.. 6]に組み合わされているのは松だろうか、全貌が明らかにされることなく植物の根だけがフレームに収まっているそのさまからはスパイキーな音が鳴り響く。花々はエフェクター本体の色調と近似する組み合わせによるものも多いが必ずしもそうではなく、そこにはエフェクターが発する音に対する東の発想が反映されている。もちろんフレーム中の構成も強く意識されているだろう。ここで試みられているのは花を用いた音の視覚化であり、写真としての花の可能性の探求でもある。

    花器に生けられた花やライブによって踏みつけられた花と、写真に写る花とを等価なものとして捉えることができるか、否か。それはすなわち実存的な意味での生きているものと死んでいるものをどう扱うかという問いにほかならない。美しいかたちや狂おしいほどに絢爛たる色を見せる写真を、しかしそれらはただの写真であると一蹴するのか、それとも、今はそのとおりに存在せずとも写真の中で脈打っていると考えるのか。それは音を発していないエフェクターから音を想像できるかということと同義であり、その点で、本展はわたしたちのイマジネーションを広く野に解き放つ可能性を孕んでいる。

※全文提供:株式会社ライトニング

fig. 6 ≪Effector×Flowers series≫より「SUPER Octave」2009年|インクジェットプリント、フォトアクリル加工|エディション5|33.0×22.0×3.2cm
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fig. 5 ≪Effector×Flowers series≫より「SUPER Shifter」2009年|インクジェットプリント、フォトアクリル加工|エディション5|33.0×22.0×3.2cm
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最終更新 2010年 7月 05日
 

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