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ファンタスマ——ケイト・ロードの標本室
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2010年 11月 12日

Kate Rohde,《rainbow squirrel》2009年 | ミクストメディア | 撮影Graham Baring | Courtesy of the artist and Karen Woodbury gallery, Melbourne9

本展は、東京大学総合研究博物館とのコラボレーションによって実現した、オーストラリアの現代アーティスト、ケイト・ロードの作品を日本で初めて展示する展覧会です。会場となる東京大学総合研究博物館小石川分館全体を使ったインスタレーションを制作します。

ロードは、色鮮やかなフェイクファーや樹脂、フラワーペーパーなどを組み合わせて、動植物をモチーフとした 彫刻作品や、バロックやロココ調の部屋やジオラマを思い起こさせるインスタレーションを制作する若手アーティ ストです。彼女が表現する「ありそうで、ない」動物や、自然物、空間は、ミュージアムの原型と言われる、珍奇な ものを蒐集した驚異の部屋=ヴンダーカマー(Wunderkammer)本来の在り方を感じさせます。

本展では、東京大学総合研究博物館小石川分館の「驚異の部屋」展(常設展)の中に、東京大学総合研究博物館が 所蔵する学術標本と、それにインスピレーションを得て制作される、サイトスペシフィックなロードの新作の数々を 織り混ぜたインスタレーションを展開します。明治期に旺盛した擬洋風建築(当時の大工が見よう見まねでつくった 洋館風の建物)として国の重要文化財にも指定されている同館の中に、カラフルな小部屋「ケイト・ロードの標本室」 が出現し、全体にもロードの小作品や学術標本が散りばめられることで、展示空間は歴史と現代が入り混じる重層した 世界へと様変わりします。

タイトルである"Fantasma" とは、「亡霊、幻影、幻想」を意味する"phantasm" に由来します。人工の素材のみを 用いて造られるロードの作品と、学術標本が織りなすヴンダーカマー的コレクション、そしてそれらを包む擬洋風 建築。いずれも異なる来歴や出自を持つこれらは、展覧会を通じて、あたかも昔からそうであったかのような、ひとつ の世界観として私たちの前に立ち現れてくるでしょう。そうした世界観を作り出している(あるいは作り出している ように見える)のは、実在しない幻(phantasm)のような「ファンタジー(fantasy)」というフレーミングです。

そもそも、「ヴンダーカマー」とは、近世の王侯貴族が、文字通り「wunder=wonder 不思議、驚異」の感覚に基づき、分野を隔てず様々な珍品を蒐集したコレクション陳列室です。そこでは、その他の珍しい品々と同じく、ドラゴン や人魚、ユニコーンの角といった架空の動物もコレクションの一部を飾っていました。それらは想像上の怪物であるにもかかわらず、生きた証拠かのような物理的な存在を持つことで、実在か架空かを超えたミクロコスモスを形成し、人々を魅了したのです。このような驚きや好奇心をくすぐるものを人々が求める衝動は、現代においてもなお、アートが担うべき側面のひとつではないでしょうか。この展覧会に訪れる一人ひとりが、見知らぬ何かに思いを馳せ、ある情景を想像するとき、目の前の作品たちの向こうには「あるかもしれない」世界が広がるでしょう。

出展作家:ケイト・ロード
オーストラリア出身アーティストのケイト・ロードは、主にカラフルなフェイクファーやラインストーン、樹脂といった人工的なマテリアルを用い、架空の動物などの精緻な彫刻を制作しています。また、博物館の展示方法や剥製術にヒントを得て、ヴィトリーヌ(ガラス容器)の中に動物を模したオブジェを設置する彫刻作品や、ジオラマのような見せ方を意識したインスタレーション作品なども制作します。近年はヨーロッパや日本でのアーティスト・イン・レジデンスを経て、バロック様式や日光東照宮などに見られる「自然」の装飾的な表現をロード自身が再解釈し、展示空間ごと制作するインスタレーション作品も発表しています。

学術的・博物学的な背景をもちながらも、愛らしい動物や、鉱石のようなモチーフをすべて手作業で制作し、カラフルでキャッチーなオブジェとして表現するロードの作品は、既に世界でも注目されており、本国オーストラリアでは、美術業界はもちろんのこと、「ヴォーグ」や「バザー」、「NYLON」などの女性ファッション誌でもこぞって紹介されており、今年の5 月には、ファッションブランドとのコラボレーションによるコレクションも発表されました。

※全文提供: 東京大学総合研究博物館


会期: 2010年11月6日(土)-2010年12月5日(日)10:00 - 16:30|入場料無料
休館日: 月曜日・火曜日(11月23日[火・祝]は開館)
会場: 東京大学総合研究博物館小石川分館(東京都文京区白山3-7-1)
公式ウェブサイト: http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/2010FANTASMA.html


最終更新 2010年 11月 06日
 

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