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大西伸明:新しい過去
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 8月 02日

画像提供:MA2 Gallery|Copyright © Nobuaki Onishi

大西は日用品から植物といった自然物まで …誰もが一度は目にしたことがある物体を原寸大でFRPや樹脂で精巧に型取りをし、その上から着色をしていく立体作品を中心に、関西を拠点に発表してきました。しかし、それは単純に「立体作品」あるいは「インスタレーション」というような括りで語れるものでは到底なく、京都市立芸術大学大学院在籍中には版画を学んでいたという大西ならではの、「量産」あるいは「反復」させることで新たなイメージを紡ぐという、まさに新しい「版表現」を繰り広げています。

銀色のビニールシートに包まれて何かを物語ろうとする掘建て小屋、錆び付いて役目を失いかけた鍵、雨晒しの有刺鉄線、あたかも女性が脱ぎ捨てたかのような黒いパンプス…ピンとはったギターの弦のように、作品と作品の間には何とも言いがたい張りつめた空気が流れ、恐る恐る近づき目を凝らしてみます。よく観ると、本物ではないことがわかります。物体の先端は透明になっていて、樹脂が見えているのです。しかし、本物らしくない点はそれだけではありません。丁寧に着色が施された表面部には、あえて本物らしくなる寸前で描くのをやめる場合もあれば、先端部分は透明のまま素材が見えてしまっているものもあります。

例えば、今にも崩れ落ちそうに脆く、良い風合いに錆びついた褐色の脚立は、本物らしさを失いつつも、本物より美しい姿を感じとることができます。唯一無二、すなわちオリジナルの意味を強く訴えかけます。大西の作品は同時に、型取りという「版表現」であるがゆえに量産可能であるという、紛れもない事実に一種の儚さを感じとることができないでしょうか。

それはこれまでの大西の活動をみても、一貫された美学であることがよくわかります。大西にとって東京での初個展となったINAXギャラリーでの展示「無明の輪郭」展(2008年)ではドラム缶や雨傘といった普段全く気にも留めないモチーフを圧倒的な存在として浮かび上がらせた一方で、見えないけれど確かにそこにあった気配を生み出し、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」、それぞれの世界を見事に表現しました。一昨年、発電所美術館で行われた「LOVERS LOVERS」展(2008年)では、この世に一つしかないはずの樹木や石ころといった自然物を“対”にして展示をすることによって、互いを愛し合う恋人たちのように「リアル」と「フェイク」になぞらえました。このように大西は、本来ならば相対するはずの事柄を、「反復」させることによって、まるで等価なもののように提示をし、美しいものへと昇華させていくのです。

本展では、不気味に佇む作品を前に、確かにここに人が居たという痕跡と、既に跡形もないというその矛盾する事実に私たちは翻弄されながらも、きっと魅了されることとなるでしょう。時間軸を超えた表現、「新しい過去」が刻々と刻まれてゆくのです。8月はメルボルン、11月からは岡山県立美術館での展示を控え、確かな存在感を見せる大西にとって、東京での貴重な新作発表の場となります。是非この機会に足をお運び頂き、そのウィットに富んだ世界観をご堪能ください。

※全文提供: MA2 Gallery


会期: 2010年10月1日(金)-2010年10月30日(土)

最終更新 2010年 10月 01日
 

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