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版画と彫刻による哀しみとユーモア:浜田知明の世界展
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 7月 11日

《アレレ…》 1974 年 エッチング、アクアティント、紙
画像提供: 神奈川県立近代美術館

版画家、彫刻家として、92 歳になる今もなお活躍する浜田知明の展覧会を開催します。浜田知明は、1917(大正6)年、熊本県上益城郡高木村(現・御船町高木)で生まれ、青春時代に戦争を体験した世代です。中国に出征した浜田は、軍隊体験をもとに戦後制作した〈初年兵哀歌シリーズ〉(1950-54)によって高い評価を受けました。そのシリーズに終止符が打たれたのちも50 年以上、戦争をテーマにした作品を描き続ける一方で、多岐に亘るテーマの版画も多く描き出してきました。

また彫刻家としての制作も、すでに20 年以上になります。この5年間にも未発表の新作が制作され、今回の展覧会で紹介します。そして、〈初年兵哀歌シリーズ〉の底に流れる人間への深い愛は、その後50年間、版画と彫刻を通して制作し続けてきた活動の中に脈々と受け継がれてきています。

浜田知明の作品を見ていくと、《ボタン(B)》や《取引》などでは、現代社会が直面する重大な問題への風刺と糾弾を容易に認めることができるでしょう。また、《情報過多的人間》や《だめな奴》には人間の孤独感や疎外感が表われ、冷静に表現する浜田知明という芸術家に、現代人の正体を暴きだす知見者としての側面も認めることができます。《見られている・・・。》などが表わす、他者から監視される現代社会の不安は、一見自由な社会への警鐘と言えるでしょう。最近作の《壁にぶちあたった男とそれを見て嗤う男》は、人間が生きていくうえで繰り返しおこなってきた涙と笑いのドラマを見事に表わしています。このように鋭い人間観察による浜田知明の芸術は、深い愛情を背景に人間存在の哀しみとユーモアを豊かに表現し続けています。今回の展覧会は、版画173点、彫刻73点、油彩画4 点のほか、デッサンやスケッチ、資料など約80点、総計約330点による浜田知明の世界を展観するものです。単に喜怒哀楽という範囲を超えて、人間への信頼を失わない浜田知明の表現する人間たちに、慈愛にも似た大いなる愛情を感じ取っていただけることでしょう。

浜田 知明
1917(大正6)  12 月23 日、熊本県上益城郡高木村(現・御船町高木)に生まれる。
1934(昭和9)  東京美術学校油画科に入学。
1939(昭和14) 東京美術学校油画科卒業。
1940(昭和15) 2 月、中国大陸に派遣される。
1945(昭和20) 9 月、敗戦により除隊復員。
1950(昭和25) 駒井哲郎のプレス機で《聖馬》、《芋虫の兵隊》を作る。
1951(昭和26) 〈初年兵哀歌〉シリーズの発表を始める。
1956(昭和31) 第四回「白と黒」国際版画展(ルガノ)において《初年兵哀歌( 歩哨)》で次賞受賞。
1964(昭和39)  10 月、渡欧。おもにパリに滞在。
1979(昭和54) アルベルティーナ国立素描版画美術館(オーストリア、ウィーン)と
グラーツ州立近代美術館( オーストリア、グラーツ)で「浜田知明展」を開催。
1980(昭和55) 神奈川県立近代美術館で「浜田知明・銅版画―《初年兵哀歌》から《取引》まで―」を開催する。
1993(平成5)  ロンドンの大英博物館・日本館で《浜田知明展》を開催。
2000(平成12) 神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で「浜田知明―彫刻による風刺」が開催される。
2007(平成19) ウフィツィ美術館(イタリア、フィレンツェ)に版画19 点が収蔵されることになり、素描版画室において記念展が開催される。

※全文提供:  神奈川県立近代美術館


会期: 2010年7月10日(土)-2010年9月5日(日)

最終更新 2010年 7月 10日
 

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