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松本央:現(うつつ)の果て
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 6月 11日

画像提供:COMBINE|Copyright © Hisashi Matsumoto

 

人は生きている限り、移ろい変わっていく。肉体の変化は勿論、精神においても、自分が意識する、しないにかかわらず、自らが接するあらゆるものから、五感を通して感じる刺激や情報の影響を受け恒常的に変化している。しかし、このような様々な刺激や、膨大な情報の渦中にゆらゆらと漂い、あるいは流され、変化を続けながらも、私は揺ぎ無い「私」として存在している。この矛盾の上に「人間」の存在はある。私は、この時代を生きる「私」という特定の個人の身に起こる変化、現象を描き続けていくことで、逆説的に、揺ぎ無い存在である「私」、さらには時代や場所、性差などの違いを超えた「人間」の本質を浮き彫りにしたいと考えている。 
- 松本央

松本央は1983年京都生まれの27歳の画家である。彼は終始一貫自画像を画き続けることを決意した画家でもある。社会の中で自分は何者なのか?それが良く分からない状態で毎日を過ごす現代人は社会の中で様々な顔を待たなくてはならなくなった結果、本当の自分の姿を喪失していく。心の内に問いかける時、答える自分が本物なのか問いかけている自分が本物なのか?社会にでて見られている顔が真の自分の顔なのか仮面なのか?その判別が出来なくなった現代人は、改めて見えない束縛からの開放への戦いを挑まなくてはならない。松本が画く自画像とは、そんな現代社会に生きるありのままの自分を見つめ探す行動的記録日記でもある。

【作家プロフィール】
1983年 京都生まれ2007年 京都精華大学芸術学部造形学科洋画専攻 卒業2009年 京都精華大学大学院芸術研究課博士前期過程洋画専攻 修了 個展 2004年「マツモトヒサシ展」 京都精華大学7−23ギャラリー 2007年「Who are you?」 画廊編、ぎゃらりーかのこ(大阪)2009年「松本央展 Protozoa」 アートスペース虹(京都) グループ展等2006年「Intersection points」 京都精華大学ギャラリーフロール 2008年「第62回二紀展」初出品初入選

※全文提供: COMBINE


会期: 2010年7月19日(月)ー2010年8月18日(水)

最終更新 2010年 7月 19日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


108人の自画像を描いた個展「無常の空間―108人の自画像―」(2010年6月22日~7月15日)に続く松本の連続個展の2回目。赤ん坊から子を身ごもる松本の自画像までが円環するように展示され、自画像をテーマとする松本の世界観が凝縮されている。だが、自身では描くことができないはずの赤ん坊や子を生むことができない男性である松本の妊婦像が描かれるなど、自画像の概念は拡張されている。それは、自身が自身を描き続けることで生まれる自画像という名の作品(子ども)を慈しむような世界観なのかもしれない。

松本は学生時代から現在まで自画像を描き続けているが、今展ではサングラスをかけたスーツ姿の男性2人が開け放たれたドアの前に立ちふさがる『Gate of H 』(2010)が新展開を予感させる。他の自画像では目が描かれているため、表情が優しく温和に感じるのに対し、今作品はサングラスをかけて目が見えないため睨まれている(見られている)と感じる。自画像における目の不在が及ぼす心理的な効果が興味深い。


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