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Stitch by Stitch:針と糸で描くわたし
編集部ノート
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2009年 9月 21日

「刺繍」を取り扱う「現代美術」の展覧会ということで試み自体は新しいが、しかし作品自体が訴えかけるものが希薄でただジャンル横断的な愉悦にのみ留まっている。唯一瞠目したのが奥村綱雄による≪夜警の刺繍≫だ。作家が夜警の勤務中に作り出した刺繍作品とその場面を写した写真に加え、その下に勤務中の制服や手帖、時計、さしかけの刺繍など現場の様相を伺わせるものがまとめてある。刺繍作品の大きさは文庫本を開いた程度と大きくないが、「stitch」(針を運ぶこと)の執拗な反復作業によって作られた布の表面は見るものを圧倒させるに十分だった。「現代美術」と呼ばれようが「刺繍」と呼ばれようが、優れた作品はそのような他者からの名付けを越境して鑑賞者の眼を見開かせるという好例である。

最終更新 2010年 6月 27日
 

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