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伊東靖和:陶 記憶のいきものたち
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2010年 4月 06日

《scarab》 2009年 w25×d38×h24|撮影:末正真礼生 画像提供:INAXガレリアセラミカ copy right(c) Yasukazu ITO

ぬめぬめと光る内臓に似たひもで胴体を覆われた、巨大なトンボ。幅190cm の羽を広げ、たくさんの目玉と、触覚とも体液を吸う口ともつかない管状のものを顔いっぱいに蠢かす『dragonfly』を見るとき、多くの人がぎょっとすることでしょう。ぐちゃぐちゃとからまった脚と身体はくっついて一体となっています。重機関車を思わせる全身は200kg の重さです。小さな昆虫を目にして感じるすごさをかたちにしようとして、この大きさになったのだと話します。
伊東靖和の作品は、不気味ないきものの生命感が迫ってくるオブジェです。
人体の臓器、乗り物、さらにバイクと昆虫、イチゴとうさぎ、戦車と乳母車など、いくつかのイメージの組み合わせを行ない、そのときどきで惹かれるものをモチーフに新しい造形物を生み出してきました。その核には、誰もが抱くような子供の頃の、封じ込めておきたいような思い出や純粋な怒りといった感情があるといいます。陶芸をはじめてから、積み上げて大きなものをつくる挑戦への楽しみを感じていた伊東ですが、最近では小さなものに生命の精緻さを表現しようともしています。荒削りでダイナミックな迫力と、思わず目をそらしながらまた見つめてしまう生々しいかたちを、ぜひ会場でご覧ください。
今年大学院を卒業したばかりの作家の初個展となります。新作3 点を含む4 点を展示する予定です。
伊東靖和プロフィール
1985.7 埼玉県生まれ
2004.4 多摩美術大学美術学部工芸学科陶専攻入学
2008.3 多摩美術大学美術学部工芸科陶専攻卒業
2008.4 多摩美術大学大学院美術研究科工芸陶研究領域入学
2010.3 多摩美術大学大学院美術研究科工芸陶研究領域卒業
グループ展:
2008.3 多摩美術大学美術学部工芸学科卒業制作展(青山スパイラル)
〃.8 岐阜県瑞浪市みずなみ陶土フェスタ
クレイオブジェコンテスト2008 グランプリ受賞(グループ制作)
〃.8 三国演文・2008 年中日韓現代陶芸新世代交流展(石湾陶瓷博物館/中国佛山)
〃.10 第2回多摩美術大学大学院各専攻領域合同展示・公開講評会「ノーボーダー展」
2009.7 「福岡と東京の作家展」東京都中央区銀座ギャラリー近江
※全文提供: INAXガレリアセラミカ

最終更新 2010年 4月 06日
 

編集部ノート    執筆:田中みずき


生物の体の、筋や肉が蠢く様が鮮烈に汲み取られ、生理的感覚がゆさぶられる陶芸作品が並ぶ。生命が持つグロテスクさと、生きる力が漲る美しさの相反する両面を見せてくれる大型の作品が印象的だ。圧巻はトンボがモチーフとなった《dragonfly》だろう。飛びかかってくるようなその姿は、実際のトンボより肉感的であり、身体の器官が晒される形態にアレンジされている。生生しさに一瞬たじろぎつつもそのパワフルな存在観に目を奪われる。
モチーフは、格好やフォルムのアレンジ等からSFのようなストーリー性を孕むので、観ながらお話を考えるのも面白い。技法に関しても、大きな陶芸作品を壊さずに焼き上げる技術はもちろんのこと、どの部分にどのような手法を使っているのかなど、使うテクニックに作者の観察眼が生きているようだ。
幼児などには少々刺激が強いかも知れないが、男の子の心を持った老若男女に、声を上げながら見入ってもらえそうな展覧会である。


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