| EN |

アーティスト・ファイル2010-現代の作家たち:
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 19日

福田尚代 《夏への扉》 2003年 本に刺繍 作家蔵 撮影:飯田博之

石田尚志 《海の壁-生成する庭》 2007年 3面スクリーンによるビデオ・インスタレーション 豊田市美術館での展示風景(2009年)

桑久保 徹 《光の毒》 2009年 油彩/カンヴァス ©KUWAKUBO Toru Courtesy Tomio Koyama Gallery

アーノウト・ミック 《タッチ、ライズ・アンド・フォール》 2007年 2面スクリーンによるビデオ・インスタレーション Courtesy carlier | gebauer, Berlin

南野馨 《Untitled 0903》 2009年 陶

O JUN 《3m》 2006-2007年 顔料、岩絵具、 グアッシュ/紙 撮影:山田新治郎 ©O JUN Courtesy Mizuma Art Gallery

斎藤ちさと 気泡シリーズより 《クローバーの絵》 2009年 ラムダプリント

「アーティスト・ファイル」は、国立新美術館が、国内外で今もっとも注目すべき活動を展開している作家たちを選抜し、紹介するアニュアル(毎年開催)形式の展覧会です。2008年、2009年に続き3回目となる今回は、国内6名、海外1名の計7名の作家を取り上げます。 「アーティスト・ファイル」には、毎回、特別なテーマはありません。また、表現メディアや年齢にも制限を設けていません。今回も、30歳代から50歳代まで幅広い世代の、絵画、映像、立体など、さまざまな表現、さまざまなテーマが会場に展開します。この多様性や複雑さから、時代のリアリティーというべきものを浮かび上がらせることが、「アーティスト・ファイル」の目的です。 その意味で、「アーティスト・ファイル」は、文字通り、各作家が独自の視点で切り取った「現代」をファイリングした、大きなキャビネットにも例えることができるでしょう。ファイルを次々と手に取るように、7名の個展をめぐりながら、それぞれの「現代」をお楽しみください。

-出品作家 (ABC順、敬称略)-
福田尚代 FUKUDA Naoyo (b. 1967-)
埼玉県生まれ。現在、埼玉県在住。福田尚代は、言葉や文字と、自身、あるいは世界とのつながりのあり方に意識を向けながら、回文*の詩作と、本や文房具を素材とした作品によって、独自の表現世界を紡いできました。本展では、大学院終了制作である、細かな「蓮」の字を書き連ねた平面作品《不忍 蜘蛛の糸》から、書物を用いた一連の作品、回文の印字、そして名刺や葉書を素材にした新作にいたるまで、言葉にまつわる作品を一堂に集め、ひとつのインスタレーションとして構成する予定です。
*文頭・文末のどちらから読んでも同じ音になる文章

石田尚志 ISHIDA Takashi (b. 1972-)
東京都生まれ。現在、東京都在住。石田尚志は、線描によって抽象絵画が描かれていく過程を一筆進めるごとにコマ撮りし、記録した映像を制作しています。ひと続きに上映すると、線が人の手を介さず、あたかもそれ自体が生命を得て動き回り、画面を埋め尽つくしていくかのように見えます。静止した絵画の世界から生まれる、連続する有機的な映像の世界は、時間の永遠性や無限に広がる宇宙をも感じさせ、壮大なスケールで観る者に迫ります。本展では、3面スクリーンによる映像作品や、巻物状の絵画とその生成映像を組み合わせたインスタレーションなどを紹介する予定です。

桑久保 徹 KUWAKUBO Toru (b. 1978-)
神奈川県生まれ。現在、神奈川県在住。海岸のあちこちに本が積み上げてあったり、人々が横たわっていたりする桑久保の絵画は、不可思議で幻想的なイメージに満ちています。それは、桑久保本人の心象風景であると同時に、人と人との関係が希薄化した現代の荒涼とした時代感を表現しているかのようです。こうした独特の世界は、北方ヨーロッパの巨匠たち(ゴッホ、ムンク、アンソールなど)の作品を想起させる筆遣いや色使いを引用することで、さらに強調され、深みを帯びます。今回はそうした作品9点と、壷をモチーフにした新作10点を紹介する予定です。

アーノウト・ミック Aernout MIK (b. 1962-)
オランダ、フローニンゲン生まれ。現在、アムステルダム在住。オランダの作家アーノウト・ミックは、彫刻から出発し、写真やインスタレーションも手がけるなかで、映像を組み合わせる手法を見いだしました。ミックのビデオ作品は、一見、明確なストーリーが展開しているようにも見えますが、出来事が反復したり、意味のない行為がなされたりしています。こうした映像を複数のスクリーンに投影するインスタレーションは、見る者の視覚だけでなく、身体感覚をもダイレクトに刺激します。本展では、二点のビデオ作品、《浸透と過剰》(2005)と、《タッチ、ライズ・アンド・フォール》(2007)を組み合わせたインスタレーションを展開します。

南野 馨 MINAMINO Kaoru (b. 1966-)
大阪府生まれ。現在、大阪府在住。南野馨の作品は陶です。つまり土を焼いて作った立体作品ですが、一見すると、金属の部品で構成された構造体のように見えます。私たちは土による造形と聞くと、つい手を使って造形した有機的な形を思い浮かべてしまいますが、南野はそうした先入観に風穴を開け、設計図を書き、型取りし、焼いた後の縮みも計算に入れながら、土によりシャープで無機的な形を作り出します。本展では、新しい陶のあり方を追及する南野の新作2点を紹介する予定です。

O JUN O JUN (b. 1956-)
東京都生まれ。現在、東京都在住。O JUNは、描く対象と自身との関わりのあり方によって、画材や技法を変えながら、絵画、ドローウィング、版画とさまざまな媒体の平面作品を制作し、「描くこと」に体当たりで取り組み続けてきました。人物、建物、風景など、身の回りのごくありふれた対象が目にとまったときの一瞬の反応を、潔い線描と平坦な色面にとらえた画面は、独特の不可思議なリアリティーをたたえ、見る者の習慣化した物の見方や思考をゆさぶります。今回は、まだ学生の頃の1982年に描かれた油彩画から最新作まで、絵画作品を一堂に会し、O JUN絵画の集大成ともいうべき展示を試みます。

斎藤ちさと SAITO Chisato (b. 1971-)
東京都生まれ。現在、千葉県在住。物理学では、世界は粒子を基本に構成されていると考えます。斎藤ちさとは、その考え方にもとづき、見えるものの形を「粒」によって表現することから始めました。それは最初に「米粒」を使った作品となり、次いで「粒」を三つ合わせた「クローバー」による表現に、さらには「気泡」をモチーフにする作品へと展開します。炭酸水によって生まれた「気泡」を撮影した作品にご注目ください。水を介することで抽象絵画のようにさえみえる背後の風景が、ひとつひとつの気泡のなかに美しく映し出されています。本展ではそうした写真作品と、「粒」をテーマにしたアニメーション映像を紹介します。

※全文提供: 国立新美術館


会期: 2010年3月3日-2010年5月5日

最終更新 2010年 3月 03日
 

関連情報


| EN |