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建築はどこにあるの? 7 つのインスタレーション
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 17日

アトリエ・ワン《ライフ・トンネル》 (「Psycho Building」展、ヘイワード・ギャラリー/ロンドン) 2008 年、写真:アトリエ・ワン © 2009 Atelier Bow-Wow Co. Ltd

この「建築展」では新作インスタレーションが展示されます。参加するのは、世代もタイプも異なる7組の日本の建築家たちです。 「建物」をつくるときとは異なる条件の中で彼らが頼るもの。それはきっと、建築家として鍛え上げてきた、論理(ロジック)と技術(テクニック) と感性(エステティック)のバランスがとれた思考方法となるでしょう。このバランス感覚に長けているからこそ、現在、日本の建築は世界的に注目されていると言えます。そして、もしそうしたところに「建築」の特徴があるのだとすれば、建築を考える際に重要なのは、「建築とはなにか」を問うことではなくて、どこにどのような形で建築が現われてきているかを捜すことではないでしょうか。 三種類の多面体でつくられた空間、「空間」が生滅する場、動物にも見える東屋(あずまや) 、模型の一日を見せる映像空間、繊細( フラジャイル)な構造体、スケール感覚が不思議な広場など、多種多様なインスタレーションを通して、建築はどこにあるのか、ぜひ捜してみてください。

ITO Toyo 伊東豊雄
今回の作品: 2009 年に行われた「ノルウェー・オスロ市ダイクマン中央図書館コンペティション」で伊東豊雄が提案した空間構成システムは、3種類の多面体を空間全体に充填しつつ展開させるというダイナミックなものだった。今回のインスタレーションは、そのシステムを使ったものとなる。「座・高円寺」「台中メトロポリタンオペラハウス」「カリフォルニア大学バークレー美術館/パシフィック・フィルム・アーカイブ」など最近のプロジェクトを、散策するように紹介していく展示方法は、観るという行為自体を斬新なものとしてくれるだろう。
プロフィール:  伊東豊雄は、2006 年にRIBA ゴールドメダルを受賞するなど、世界的な建築家として知られている。しかし、つねに彼は、新しくも根源的である空間のつくり方を探求している。斬新な「形」をいたずらにつくるのではもちろんない。「単純なルールで複雑な空間を作る」といったような明確なコンセプトのもと、論理に基づいた空間をつくろうとしているのだ。その空間が快適に感じられるのだとしたら、それは、今や私たちの思考までを支配するようになった「水平/垂直」というあり方から自由な空間が生まれているからだろう。伊東の建築は、初期だろうと近作だろうと、人間にとって自由とはなにかという問いに対する回答であるという点では、一貫しているように思える。
略歴: 1941 年生まれ。65 年東京大学工学部建築学科卒業。菊竹清訓建築設計事務所を経て、71 年アーバンロボット設立。79 年伊東豊雄建築設計事務所に改称。2005 年からは、くまもとアートポリスコミッショナーも務める。 主な作品: 「中野本町の家」(1976)、「シルバーハット」(1984、住宅) 、「横浜風の塔」(1986)、「八代市立博物館」(1991)、「下諏訪町立諏訪湖博物館」(1993)、「大館樹海ドーム」(1997)、「せんだいメディアテーク」(2001) 、「ブルージュ・パビリオン」(2002) 、「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2002」(2002) 、「まつもと市民芸術館」(2004) 、「TOD’S 表参道ビル」(2004) 、「福岡アイランドシティ中央公園中核施設ぐりんぐりん」(2005) 、「MIKIMOTO Ginza 2」(2005)、「瞑想の森市営斎場」(2006) 、「コニャック・ジェイ病院」(2006、パリ) 、「VivoCity」(2006、シンガポール) 、「多摩美術大学図書館(八王子キャンパス) 」(2007) 、「座・高円寺」(2008) 、「2009 高雄ワールドゲームズメインスタジアム」(2009、台湾)など多数。 主な著作: 『 風の変様体』( 青土社、1989) 、『シミュレイテド・シティの建築』(INAX 出版、1992) 、『透層する建築』(青土社、2000) 、『みちの家』(インデックス・コミュニケーションズ、2005) 、『けんちく世界をめぐる 10の冒険』(彰国社、2006)など多数。

SUZUKI Ryoji 鈴木了二
今回の作品: 竣工間近のある住宅(《物質試行 50》) を「DUB」( 増幅しながらのディストーション) してできた巨大模型を発表する予定。
プロフィール: 鈴 木了二の創作を支えているもの、それは、建築だけでなく、絵画、写真、映画、音楽、文学、哲学など、芸術・思想の世界を縦横無尽にとびまわる感性にほかならない。その感性に基づきつつ、彼は、素材、文脈、ヒト、それら「物質」の出会いから生まれるものとして、形と空間を探求する。作品は、建築であっても本であっても全て「物質試行」と名づけられ、ナンバリングされる。 鈴木が生みだす空間は、連続性と非連続性、闇と光、ヴォリュームとヴォイドといった対照的な要素の妙なる組み合わせにより、そこを歩くことがまるで「映画」の空間的体験のようになっている(実際彼は映像作品をつくってもいる) 。実体としてはソリッドであっても、体験はなまめかしく流動的となる、そこに鈴木の妙がある。
略歴: 1944年生まれ。68 年早稲田大学理工学部建築学科卒業。68-73 年竹中工務店設計部に勤務。70年 fromnow 設立。70-72 年竹中工務店から槇総合計画事務所に出向。77 年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。82 年鈴木了二建築計画事務所に改称。97年早稲田大学教授、2004 年からは早稲田大学芸術学校校長を務める。 主な作品: 「T 邸(物質試行 5) 」(1978) 、「東久留米の住宅(物質試行 17) 」(1986) 、「麻布 EDGE( 物質試行 20) 」(1987) 、「絶対現場 1987(物質試行 24) 」(1987) 、「フォリー 花と緑の博覧会'90 (物質試行 31) 」(1990) 、「成城山耕雲寺(物質試行 33) 」(1991) 、「佐木島プロジェクト(物質試行 37) 」(1998) 、「熊本県立あしきた青少年の家(物質試行 38) 」(1998) 、「金刀比羅宮プロジェクト(物質試行 47) 」(2004) など多数。 主な著作:  『物質試行 28 「非建築的考察」』(筑摩書房、1988) 、『建築家の住宅論 鈴木了二』(鹿島出版会、2001) 、『建築零年』( 筑摩書房、2001) 、『物質試行 49 鈴木了二作品集 1973-2007』 (INAX出版、2007)など多数。

NAITO Hiroshi 内藤廣
今回の作品: 約 200 個の赤色レーザーを使ったインスタレーションを制作する。非実体的だけれど、人が入ると「空間」がリアルに浮かび上がる、そんな不思議な作品になるはずだ。なお、本作品に触発されて、マイムをベースにしたダンスで知られる「じゅんじゅん SCIENCE」が、会期中数回にわたり内藤作品内でパフォーマンスを行う予定である。
プロフィール: 大胆なのに洗練された構造。シンプルだけれどエレガントな形。そんな特徴を持つ内藤廣の建築は、「作品」となろうとは決してしない。それはただ、建物によって守られているようでいて実はむき出しの空間を、寡黙に目指している。 一見すると穏やかな建物を設計する内藤だが、「建築」と「土木」を融合した「建土築木」の理念を提唱し、建築家として東京大学の土木工学科( 現・社会基盤学科)の教職に就くなど、活動の根底にあるのは、アヴァンギャルドな精神である。
略歴: 1950 年生まれ。76 年早稲田大学大学院修士課程修了。フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所(マドリッド) 、菊竹清訓建築設計事務所を経て、81 年に内藤廣建築設計事務所を設立。2001年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学科助教授、03年から教授。07 年からはグッドデザイン賞審査委員長も務める。 主な建築作品: 「海の博物館」(1992) 、「安曇野ちひろ美術館」(1997) 、「牧野富太郎記念館」(1999) 、「島根県芸術文化センター」(2005) 、「日向市駅」(2008) 、「高知駅」(2009) 、「虎屋京都店」(2009) など多数。 主な著作: 『建土築木1 構築物の風景』、『建土築木2 川のある風景』(以上ともに鹿島出版会、2006) 、『建築的思考のゆくえ』(王国社、2004) 、『構造デザイン講義』(王国社、2008) 、『建築のちから』( 王国社、2009) など多数。

Atelier Bow-Wow アトリエ・ワン
今回の作品: アトリエ・ワンは、世界中の展覧会に参加しているが、そこでつくった作品全てを、「マイクロ・パブリック・スペース」という名前(考え方)で捉えている。今回は美術館の前庭に、《待ち合わせ》と題したインスタレーションを制作。モチーフは動物、素材は竹、機能は東屋(あずまや)である。いつもは、野外彫刻の展示スペースなのか、入ってよい場所なのか、よくわからない場所なのだけれど、《待ち合わせ》によって場所全体がリ・デザインされることで、いろいろな「振る舞い」が自然に生まれてくるのではないかと期待している。
プロフィール: 塚本由晴と貝島桃代による建築事務所がアトリエ・ワンである。「ワン」は犬の鳴き声。だから英語による表記は、Atelier Bow-Wow となる。そんな洒落っ気を持っている彼らは、住宅を、小さな存在としては捉えていない。むしろ、東京という都市の中では、住宅のような「粒」のレベルで更新していくことの方が、リアルな変容をもたらすと考えているように見える。そうした考え方を可能にしているのは、東京を中心にした徹底したリサーチと観察と分析であり、その成果は、今や世界的に有名となった『メイド・イン・トーキョー』などの著作に結実している。 塚本由晴 
略歴: 1965 年生まれ。87 年東京工業大学工学部建築学科卒業。87-88 年パリ建築大学ベルヴィル校(U.P.8)にて学ぶ。92 年貝島桃代とアトリエ・ワンを設立、94 年東京工業大学大学院博士課程修了。ハーバード大学大学院客員教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)客員教授などを歴任。2000 年より東京工業大学大学院准教授。 貝島桃代 略歴: 1969 年生まれ。91 年日本女子大学住居学科卒業。92 年塚本由晴とアトリエ・ワン設立。94 年東京工業大学大学院修士課程修了、96-97 年スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ) 奨学生、2000 年東京工業大学大学院博士課程修了。筑波大学講師、ハーバード大学大学院客員教授、ETHZ 客員教授などを歴任。09 年より筑波大学准教授。 主な作品(2003 年以降):  「 ガエ・ハウス」(2003)、「ホワイトリムジン屋台」(2003、第3回越後妻有アートトリエンナーレ) 、「花みどり文化センター」(2005) 、「ハウス& アトリエ・ワン」(2005) 、「マド・ビル」(2006) 、「ポニー・ガーデン」(2008) 、「まちやゲストハウス」(2008) 、「マウンテン・ハウス」(2009) 、「リンツ・スーパーブランチ」(2009) 、「フォー・ボックス・ギャラリー」(2009)など多数。 主な著作: 『 メイド・イン・トーキョー』(共著、鹿島出版会、2001) 、塚本由晴『ちいさな家の「気づき」』( 王国社、2003) 、『アトリエ・ワン・フロム・ポスト・バブル・シティ』(INAX 出版、2006) 、『図解アトリエ・ワン』(TOTO出版、2007) 、『現代建築家コンセプト・シリーズ5 アトリエ・ワン- 空 間の響き/響きの空間』(INAX 出版、2009) など多数。

KIKUCHI Hiroshi 菊地宏
今回の作品: 極 小 の模型と実際の空間が、映像でリンクする。模型の中の一日が、実際の空間で体験できる。そんなインスタレーションを制作する予定である。
プロフィール: 菊地 宏は、模型をつくるときに、一般的なスタイロフォームではなくて、木を使う。コンクリートを使うことすらある。スピードは出ないが、設計という行為が「考える」ことだけでなく「つくる」ことにかかわっていると確認できる。あるいは、「建築」と個人的に、つまりは身体的に対峙することができる。その「幸せ」な時間の体験は、当然のことながら、できあがるものにも反映されるだろう。「色」を使い、「形」に変化を加え、「光」を整理して生まれた空間は、それ自体が喜んでいるように見える。
略歴: 1972 年生まれ。98 年東京理科大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。妹島和世建築設計事務所、ヘルツォーク&ド・ムーロン建築事務所(バーゼル)を経て、2004 年菊地宏建築設計事務所を設立。東京理科大学、武蔵野美術大学の非常勤講師も務める。 主な作品: 「九段オフィスリノベーション」(2004) 、「松原ハウス」(2005) 、「LUZ STORE」(2006) 、「南洋堂書店改修」(2007) 、「浜田山の集合住宅改修」(2009) 、「大泉の家」(2009) など。 主な著作: 『HIROSHI KIKUCHI ARCHITECTS 2004-2007』(自費出版、2007)

NAKAMURA Ryuji 中村竜治
今回の作品: 波板状のものを積層させ、蜂の巣状のものをつくり、そこに穴をうがつことでできたトラス状のものに対して、外形を与えて、全体の「見え方」を検証する。そんな関心で続けてきた「hechima」の考え方を発展させて、巨大な「構造体のようなもの」をつくる予定。すかすかなのに、繊細なのに、巨大。そういうオブジェを前にしたとき、私たちはそれをいったいどのように感じるのか……構造体としてだけでなく、感覚が揺らぐそのこと自体もまた、面白さになるのではないだろうか。
プロフィール: つくりかたは同じだけれど、大きさや機能を違えたときに形はどう変わっていくのか。ある均質な構造に形を与えるとき、両者の関係と「見え方」はどうつながるのか。そうした根本的な問題に、中村は今、注力している。そのとき彼は、美しさが生まれることを恐れない。むしろ積極的に求めているところが、今の時代、新鮮に映る。2008年には「くまもとアートポリス『熊本駅西口駅前広場設計競技』」で優秀賞を受賞し、その楽しげなイメージスケッチが話題を呼んだ。
略歴: 1972年生まれ。99年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。青木淳建築計画事務所を経て、2004年中村竜治建築設計事務所を設立。 主な作品: 「hechima」(2004- 、椅子)、「shortcut」(2007、めがね店インテリア) 、「insect cage」(2007、虫かご) 、「catenarhythm」(2008、会場構成、「散歩-ミナペルホネンのリボンプロジェクト」展、リビングデザインセンターOZONE) 、「atmosphere」(2009、舞台美術、オペラ「ル・グラン・マカーブル」、新国立劇場) 、「blossom」(2009、結婚式場インテリア)など多数。

NAKAYAMA Hideyuki 中山英之
今回の作品: Tea House Competition の案、《草原の大きな扉》を基にしたインスタレーションを制作予定。「大きな扉」が1/3 の大きさになったとき、はたして扉はどう見えるのか。またそれを見る私たちは、なにをどう感じるのか。空間と身体の関係がやさしく書き換えられる、そんな体験になりそうです。
プロフィール: 伊東豊雄建築設計事務所に在籍している頃に手がけた住宅「2004」が、若手建築家の登竜門と言われるSD レビューと吉岡賞(現「新建築賞」)をダブル受賞するなど、独立前から話題を呼んでいた中山英之。しかもその住宅は、ドローイングでちょっと具体的な光景を描いてみて、それを模型につくりかえてみるという作業から生まれた。斬新なようでいて根源的な方法だからこそのやわらかな空間、そう言えるだろう。独立後も、大胆なコンペティションとして注目を集めた第1回六花の森 Tea House Competition で最優秀賞を受賞するなど、新作が常に期待されている若手建築家のひとりである。
略歴: 1972 年生まれ。2000 年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て、07 年中山英之建築設計事務所を設立。昭和女子大学、東京藝術大学、東京電機大学の非常勤講師も務める。 主な作品: 「2004」(2006、住宅)、 「O 邸」(2009)、「Y ビル」(2009) 主な著書: 『青木淳 JUN AOKI COMPLETE WORKS〈2〉 青森県立美術館』(共著、INAX 出版、2006) など。

※全文提供: 東京国立近代美術館


会期: 2010年4月29日-2010年8月8日

最終更新 2010年 4月 29日
 

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