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福本歩:フクモ陶器晩餐会
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 11月 18日

「擬物館」2006 個展展示風景 画像提供:INAXギャラリー

 

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。そこのあなた!
寒い中、ペットボトルでお茶を飲むなら、これをお使いなさい!
フクモ印の「急須キャップ」は、小さいけれど白磁でつくった本物の急須。ペットボトルのキャプに付けるだけで、まるで急須で入れたかのような気分が楽しめますよ。」

そんな呼び込みの声が聞こえそうな、福本歩さんの陶による作品は見たことも、聞いたこともない道具ばかりが何十種類と並んでいます。

展示方法もお店仕立てで、一見すると古道具屋か、骨董品店と見紛うばかりです。曰くありげでちょっぴり猥雑な品々にワクワクして品定めてみれば、なにやら由緒正しきやきものの肌合い。箱も桐箱、紫色の袱紗に包まれて、鑑定団に持って行きたくなるような品々。しかしそれら全部がみな、用途のわからない不思議なものばかり。「線香時計」は、腕時計の時計があるべき所に、青磁や金箔の小さくも立派な器が。そこに線香を立て、アナログに時間を計るばかりか、お墓参りの時にもこのままご焼香できて超便利という作品です。「風景そろばん」は骨董品の本物のそろばんの玉を、福本さんの陶器に置き換え、チャーミングなアラビアンナイトの物語や吉祥文様の白菜が並んでいます。

福本さんが、毎年製作している商品カタログ「ハンドブック」によると、「フクモ陶器はいつも、ウソのモノで人をだましたり、世間をあっと言わせたりしたいと思って」こうした作品を制作しているのだそうです。また、「既に道具として役に立たなくなった古道具を、さらに役に立たないように改良して、人に売りつけてやろう」と日夜考えています。そうして生まれた作品は、ユーモアにブラックユーモアの毒気も効いて笑いがこぼれます。陶器にまつわる歴史や窯元や骨董品の曰くまでをも逆手にとったセンスは絶妙で、こり固まった頭や体がフワフワと溶けていくような気持ちよさです。

福本歩さんは美大で陶芸を学びましたが、幼稚園の頃から、仏壇で人形遊びをするなど、ブラックユーモアやナンセンスが大好きだったそうです。2 年前の2006 年頃よりこうした作品を制作し始め、今年10 月の東京ミッドタウン・アートアワードで入賞するなど、その笑いのセンスは人々を虜にせずにはいられません。

今展では、12 月のクリスマスシーズンにちなんで、「晩餐会」をテーマにした新作が発表されます。ぜひ会場に足を運んで、フクモ陶器店からプレゼントを選んでみてください。あなたの株が上がること、請け合いです。

福本歩プロフィール
1979 横浜市生まれ
2003 多摩美術大学工芸学科陶専攻卒業
2005 筑波大学大学院修士課程デザイン専攻総合造形領域修了

※全文提供: INAXギャラリー

 

最終更新 2009年 12月 04日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


陶芸作品を実用の有無から「器」と言ったり「オブジェ」と言ったりするが、福本歩の作品はそのちょうど中間で、実用を狙っているがその実用の場面があまりに奇天烈であるという点で確信犯的な面白さがある。 まず驚くのは、ギャラリーの変貌具合だ。壁一面には茶色い紙にあたかも明治期の舞踏会らしき光景が描かれており、天井からは「SALE」と書かれた黄色い紙が垂れ下がり、そこに作品のキャッチコピーらしき文言が書かれている。そして円形のテーブルの上にところ狭しと置かれているのが福本の陶器作品だ。中央が既にご飯がよそってあるかのごとく盛り上がったカレー用の皿、どこでもお茶が飲めるようにとベルト付きの湯のみ。腕時計のように手首に常時付けることができるよう配慮してある。さぞかしお茶は飲みにくいことだろう。いずれの作品もこのような、言ってしまえばトンチンカンな作品にほかならない。しかしそのトンチンカンな作品を、作家はおそらく真面目に作っている。だから惹かれるのである。


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