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ニッポリーニ:日暮里ガイドブック
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 10月 31日

画像提供:eitoeiko

私はNipporini。東京の下町、日暮里育ちである。

日本の民主主義は、敗戦をもって生まれた。私の両親は、大きな教育の転換に、どう順応していったのだろうか。苦労があったのだろうし、案外すんなりと受け入れてきたのかもしれない。

私が写真学校で学んだ技術は、デジタルカメラの登場であっさりと不要なものとなった。私は両親と同じ境遇を味わうことが、少しはできたと思う。暗室という防空壕を抜け出てみれば、世界は0と1でできていることになっていたのだ。世の中には真実といわれてきたことが嘘になることがある。悲しいことかもしれないし、正しいことかもしれない。

フェリーニの愛と自由をもって世の中をみれば、いつわりの社会に悦びをみつけることもできるだろうか。

私はNipporini。東京の下町、日暮里育ちである。
-Nipporini 2009年 日暮里のスタジオにて

1963年生まれのニッポリーニは、商業写真家として美術品から宝石、建築、料理、人物、風景まであらゆるものをレンズにとらえ、インターネット、建築雑誌、写真専門誌、広告媒体、TVCFなどに写真画像を納める一方、デジタルカメラの技術に関する連載記事を執筆しています。特にオールドレンズを使用したデジタルカメラの撮影に関する書籍は、これまでにない分野の監修者として業界から注目されています。 eitoeikoはニッポリーニと親交を深め、彼の中にいわゆる商業写真家の持ちえないピュアな魂と、技術に関する冷静な分析眼、歴史観、枠にとらわれない思考を発見しました。そして芸術家の領域の仕事をする人間であることを再確認しました。 彼の作家としての出発は、海の写真を貼りこめて制作した翼長2メートルを超す飛行機が、嵐の空を離陸する姿を撮影したセンチメンタルな作品でした。 そして崇拝するオーガスタ・パブロの住むジャマイカのオールドタウンを訪れ撮影した作品、奄美大島を舞台に湿度を濃密な陰影で表現したシリーズ、プラスチック製の簡易カメラに工夫を加え撮影した、人間の記憶のどこかに存在する原風景を表現した『Toy Camera Story』などを発表しています。ニッポリーニは日暮里という、彼の生まれ育った東京の下町と、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニから呼称したニックネームです。 『日暮里ガイドブック』は、デジタル写真と銀塩写真から成り立つ連作です。古き良き下町の街並みと、隣接する再開発された真新しい東京に、作家はデジタルイメージとアナログ手法の両方を駆使して迫ります。デジタル写真では、ニッポリーニは劇的に流れる現代社会から失われた、時間の残り香を伝えます。しかしそこには、作家の仕掛けた罠があります。風景の一部でもあり、被写体でもある男女は、過去と現在、あるいは過去と未来といった隠喩なのでしょうか?いえ、ニッポリーニはモノクロームに限定した世界のなかで、フイルムの傷や塵といった、見過ごされるものをさえ再構築し、過去や現在、未来といった時間は、すべてひとつの大きな流れの中でつながっているということを気付かせるのです。銀塩写真に目を転じると、そこは日暮里という同じ空間でありながら全く異なる街の様相があらわれます。男女の距離は離れ、余白に消えていきます。しかし芳醇なアナログ表現からは、フェリーニの慈愛をもって人間存在を眺めれば、たとえ未来が灰色の世界になっても、そこにはやはり「生」があふれている、というささやかな希望の鐘が聞こえてくるのです。 Nipporini略歴
1963年 東京・日暮里生まれ
1983年 東京都写真専門学校卒業
1988年 コダック広告写真塾第4回広告作品展 秀作賞
1992年 第24回日本広告写真家協会公募展 APAビエンナーレ'92 入選
1992年 第6回FROM-A The Art公募作品展 写真部門 佳作
1994年 Absolute Art '94 優秀作品展 佳作
2002年 Toy Camera Story アートプランニング青山
2007年 現実と幻想の間 和木美術館 山口県
2008年 個展Echo of Light Light & Place 出版物:
『オールドレンズパラダイス』 監修 澤村徹著 2008年 翔泳社、『GR DIGITALカスタムブック』 監修 澤村徹著 2009年 翔泳社 ※全文提供: eitoeiko

最終更新 2009年 11月 21日
 

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