伊藤雅恵:She Has Mountain |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2009年 10月 29日 |
光を放つような鮮烈な色で躍動する花々をモチーフに、自らの感情や心の情景を表現してきた伊藤雅恵。これまで「VOCA展」や「トーキョーワンダーウォール都庁」などに出展し、2008年春に鎌倉画廊で開催した若手平面作家のグループ展では出展作家中最年少ながら鑑賞者に強い印象を残しました。体験や記憶のうちにある特別な感情・感覚をたどり、花の形を用いて絵画表現へと昇華させてきた伊藤ですが、新作では新たな制作手法の開拓に挑んでいます。その過程には、これまでの方法で出来てくるものが似通うことへの拒否感や、過去の1点の状態を制作中に何度も掘り返す必要性の中に「無理や嘘っぽい感じ」を引き起こしているかもしれないという葛藤があったといいます。そこで、今回は作家の周囲の「適度に距離感のある」人物を具体的なモデルに定め、実際に画面の中にも描きこむという試みをしています。 「日々変化するその人物に対する印象や関係性をすぐその日の制作に入れ込むことで、『活きの良い表現』に向かえた」という作家自身の実感や、「対象に対するまなざしが以前より客観的になったことで、重要なのはコンセプトではなく、コンセプトと作業や物質が混ざり合って出来た結果そのものであるということがはっきりした」という言葉からも、ひとつの新境地に至った様子がうかがえます。 今展では、「rolling girl」と題した作品をはじめ、大小合わせて約10点の新作を発表致します。伊藤は、鑑賞者に届く「何か」が生まれることを「事件を起こす」と表し、制作目的のひとつとしています。それぞれの新作が起こす新たな事件を体感して頂けますよう、ぜひ同展をご高覧下さい。 伊藤 雅恵(いとう まさえ) 個展: 受賞歴: ※全文提供: 鎌倉画廊 |
最終更新 2009年 11月 14日 |
アクティヴで流動的な筆の動きを目で追うごとに画面が生き生きと躍動する。それは「立ち向かう」としか言えないようなエネルギッシュな絵画なのである。伊藤はこれまで花をモチーフとして光溢れる絵画空間を展開してきたが、今展の新作では「人物」をモデルとして、これまでの光が充溢する求心的な絵画面は影を潜めた感がある。 だが、ジャコメッティの人物ドローイングを想起するまでもなく、モデルとの距離感を含めて気配や空気さえ取り込み、伊藤の筆の動きは勢いよく動き始める。より拡散的、躍動的に。イメージや形象を乗り越え、変容した先に現れる画面に「人物」などたいした意味さえ持たなくなってしまう地平へ。 《rolling girl》伊藤雅恵、00年代に現れた画家としては、近年稀にみる骨太な画家かもしれない。