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ミヤギフトシ:Author
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 10月 02日

画像提供:ヒロミヨシイ copyright(c) Futoshi MIYAGI

ミヤギフトシは、織物を解きほぐして一つ一つの糸を縒り分けるように、自己のコンテキストを解体し、作品を生み落としていく。マイノリティとしての自我を抱えるこの作家にとって、自己の同一性と、その基層としての記憶を丹念にたどっていくプロセスは、作品制作と強く結びついている。

2009年のダニエル・ライヒギャラリーでの個展「The Cocktail Party」では、布や糸などの手芸品や食器といった家庭用品と、ちぎり絵や写真表現を用いた輻輳的なインスタレーションによって、内省的な連想をシーケンス化し、ナラティブな奥行きのなかに溶け込ませた。ミヤギの主題には、家族をはじめとして、幼い頃から身の回りにあった事物、故郷の沖縄の文化を反映したものなど、自らのルーツを焦点化したものが多い。学校の授業で習ったというちぎり絵のような手法には、素朴な温もりが伴う。しかし、この作家の表現するものは、内面の茫洋とした深みに潜り、自分にとってかけがえのない、純粋なものを取り出そうとする素朴な態度とは、遠くかけ離れている。そうして取り出された純粋性というものが虚構であり、捏造でしかないことを露わにするように、ミヤギは自らの制作物を引き剥がし、覆い隠し、細切れにして提示するのである。

ルーツの異なる文化が混在する沖縄に生まれ育ち、ニューヨークを中心に活動してきたミヤギは、自分にとってもっとも親密なものと、もっとも疎遠なものとの間を往還し、それが容易に反転するということを示してきた。私的なロマンティシズムの物語に依拠せず、他者との遭遇にさらされた、終わりのない記憶の彷徨を続けうるのは、この作家はもっとも異形なる他者性を、自己の中に抱え込んでいるからかもしれない。

日本での初個展となる本展では、ミヤギが書き綴った原稿用紙300枚程の自伝が、展示の基底をなしている。公開を前提とせずに書き進めた自伝にも、あいまいな記憶や辻褄あわせによって、不可避的に虚飾がはいり込む。ミヤギはその虚構性を逆手に取り、写真やちぎり絵、筆記用具などをもちいたインスタレーションによって、虚実の皮膜に新たな可能性を見出そうとする。その展示が、追憶の温もりと慈しみに満ちながら、どこか打ちひしがれたような悲しみを漂わせるのは、安寧に満ちた本来の居場所=自己同一性を願いながら、それがもはや喪われているということを、この作家が誠実であればあるほど、みずからの表現によって証立てざるをえないからだ。あらかじめ喪われた自己への帰還、決して辿り着くことのない帰郷の歴程が、ここに一つ刻まれる。

ミヤギフトシ
1981年沖縄生まれ。東京在住。主な個展に「The Cocktail Party」「Island of Shattered Glass」「Brief Procedures」ダニエル・ライヒ(ニューヨーク)。主なグループ展として アート・ノバ(アート バーゼル マイアミ ビーチ)、パース インスティチュート オブ コンテンポラリー アート(オーストラリア)、ミュージアム オブ コンテンポラリー アート(ロサンゼルス)など。

全文提供: ヒロミヨシイ

最終更新 2009年 10月 10日
 

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