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特集展示 薔薇色の鏡 ー銅版画の技と表現
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2016年 9月 17日

長谷川潔《花(ダリア)》1935年、銅版・紙

豊かな黒の階調や強靱な線など銅版画独自の表現は、銅版画家・駒井哲郎が「薔薇色の鏡」と呼んだ磨き上げられた銅の板から生み出されます。銅版画とは、銅の板の表面につけた凹みにインクを詰め、圧力をかけて紙に刷りとる方法です。その方法には、大きく分けて銅板を直接に彫る彫刻銅版と、薬品を使った腐食銅版があります。前者にはエングレービング、ドライポイント、メゾチントなど、後者にはエッチング、アクアチント、ソフトグランドエッチングなどの技法があり、しばしばこれらの技法を併せて用います。

これらの技法はいずれも印刷のために開発されたものを、画家たちが作品制作のために用いてきたものです。時代と共に、より安価に、早く、大量に印刷できる技術が生まれるにつれて、一部の贅沢な印刷物以外には用いられなくなりましたが、いまでも美術作品制作の技術として画家たちに選ばれています。

ヨーロッパで生まれた銅版画はイエズス会の宣教師たちによって16世紀に日本へもたらされました。しかし禁教によってその流れは一度絶たれ、18世紀になって司馬江漢、亜欧堂田善らによって、日本での銅版画制作の歴史がふたたび始まりました。さらに明治維新後には、紙幣や切手を作る必要から国家によって海外から技術者が招かれ、彼らから直接に技術を学ぶ場所と機会が設けられました。

挿絵や地図など実用印刷技術として活用された銅版画は、20世紀に入ると、画家自身による「自画・自刻・自摺」を旨とする創作版画技法のひとつとして、改めて認められるようになりました。さらに美術学校の版画教室で教えられ、展覧会での発表の機会も増えると、銅版画家をめざす人たちも現れました。

このようにして銅版画はひとつの表現方法として定着してきました。現在、当館の版画コレクションの約8300点のうち、約2000点が銅版画です。このコレクションに占める割合は、かつて印刷技術として求められた精密で堅実な表現に価値を認めるにとどまらず、豊かな表現の可能性に魅せられ、生涯をその制作にかけた何人もの版画家たちの仕事があったことを示しています。

今回の展示には、明治の印刷物から、現代の美術作品として制作された銅版画までが含まれます。作り手たちが引き込まれた、金属を彫り、あるいは腐食して反転した画像を得る、どこか錬金術を思わせる技法と密接に結びついた銅版画の尽きない魅力を感じていただければと思います。

http://momaw.jp/

全文提供:和歌山県立近代美術館


会期:2016年9月13日(火) 〜 2016年11月3日(木)
時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休日:月曜日、9月19日(月・祝)、10月10日(月・祝)は開館、翌日休館
会場:和歌山県立近代美術館

最終更新 2016年 9月 13日
 

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