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トーマス・ルフ:cassini + zycles
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 11月 21日

トーマス・ルフ≪cassini 10≫2009年|C-print|© Thomas Ruff / Courtesy of Gallery Koyanagi

トーマス・ルフは1958年、南ドイツにひろがる黒い森の街、ツェル・アム・ハルメルスバッハ生まれ。デュッセルドルフ美術アカデミーでベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に写真を学んだルフは、常に写真がもつ情報性と表現性を検証しながら、写真への新しいアプローチを次々と展開してきました。後に同校の教授に就任、ドイツ現代写真の系譜を語る上で欠くことのできない存在とされています。

日本では7年ぶりの個展となる今回のギャラリー小柳での展覧会では、土星をモチーフにした「cassini」、数理曲線を分解・再構成した「zycles」の二つの新シリーズを展示いたします。

「cassini」のタイトルは、初めて土星の衛星を観測したとこで知られる17世紀の天文学者、ジョヴァンニ・ドメニコ・カッシーニに由来していますが、作品の素材となった映像はNASAとESA(欧州宇宙機関)が共同で打ち上げた土星探査機「カッシーニ」が電送してきた土星とその衛星の観測写真。ルフは宇宙から送られてきた単なる電波信号である画像を加工して、鮮やかな色彩の、抽象的にさえ見える写真作品をつくり上げました。そこには《星 stern》のシリーズから続くルフの天文学への興味だけでなく、写真がいかに情報を媒介するかという問いかけを感じることができるでしょう。

ポートレート、建築、報道、機械、ヌード、天体……とめどもなくひろがるルフの検討対象は、「zycles」シリーズにおいて数学や物理学にまでおよびます。19世紀の物理学研究書に掲載された繊細なカーブを描く電磁場の銅版画に想を得たルフは、さまざまな数理曲線が3次元でどのように見えるのかを熟考、その後3Dプログラムを用いて数式に基づいた曲線による幾何学的な構造を組み立て、それを2次元である平面作品へと変換しました。画面いっぱいに縦横無尽に走るラインは、時には複雑に絡み合い、時にはダイナミックなカーブを描きながら、観る者に無限な空間を感じさせる一方で、細部を見れば見るほどその複雑な構造に引き込まれていくという多様な見方を可能にする視覚システムとなるのです。

※全文提供: ギャラリー小柳

最終更新 2009年 10月 16日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


世界的に評価されている作家の作品が必ずしも自分にとって重要な作品とはかぎらない。ギャラリー小柳で発表されたトーマス・ルフの新シリーズ、《cassini》と《zycles》はそのギャップを強く感じる作品だった。土星探査器「cassina」から送信された画像を加工したという《cassini》は、なるほどスマートに、時にポップに天体を仕上げることに成功している。しかし写真が収められている焦げ茶色のフレームも手伝って、それらはそれなりのレベルのインテリアショップに飾られている写真を思わせた。作品が悪いわけではない。が、とりわけ何を感じることもない無味無臭の作品である。


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