黒の帳、白夜の大地

しんしんと…静けさが響いてくるような黒の余白が、観るものの胸の内を不思議とざわめかせる。幾重にも塗り重ねられ、幻惑的な気配をすら漂わせる黒地を背景に、大胆な筆致で描写された人物が穏やかな眼差しでこちらを見つめる―

国内外での多数の展覧会、小説の表紙や挿絵、舞台や映画のイメージヴィジュアルなど、近年目覚ましい活躍を見せる画家・田中千智。黒と白の鮮烈なコントラストにより独自の死生観を描き出す彼女の作品群は、観たものを瞬時にどこか彼方へと連れ去ってしまうような、強い印象を与えます。

果てのない夜、置き去りにされた情景。吐息は白く、惑い佇む人々。燐光の森、淡くゆらぐ雪の丘…。それは、画家が抱く孤絶した魂の色彩であり、人間誰もが持つ根源的な孤独の世界。鑑賞者はその画面に見入ると同時、自らの内に在る唯一人きりの静かな場所に立っていることに気付くでしょう。

一貫して描かれる、星一つない闇夜と輝く大地。そこに映るのは、凍てつく心か、希望の灯か。漆黒の背景に鮮やかに浮かび上がるのは、いつか何処かで出会う、私たち自身の物語なのかもしれません。

Bunkamuraでは二回目となる本展は、未発表の新作を中心に多数の油彩原画を展覧・販売いたします。瞬きする間に捉われる、今最も注目される俊英が放つ引力を、会場にてぜひご体感ください。

http://www.bunkamura.co.jp/gallery/exhibition/box_160129tanaka.html

全文提供：Bunkamura Gallery

会期：2016年1月29日(金)　〜 2016年2月7日(日)
時間：10:00 ‐ 19:30 ※最終日は17:00まで
休日：会期中無休
会場：Bunkamura Box ギャラリー