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タイムボカンシリーズだけじゃない、アーティストとしての天野喜孝―開催中の天野喜孝展「AURUM」
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Written by KALONSNET Editor   
Published: October 01 2015
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天野喜孝「Wind and Thunder Gods 2」2015; アクリル、箔、パネル; 各37.5x50cm(2枚1組) ©AMANO Yoshitaka Courtesy Mizuma Art Gallery

ミヅマアートギャラリー(東京・新宿区市谷田町)にて天野喜孝展「AURUM」が開催中だ。

「天野喜孝」と聞いてピンとこない人も、「ヤッターマン」なら見たことがあるだろう。天野のキャリアは1967年、15歳でアニメーション制作会社のタツノコプロに入社した時から始まる。同社のアニメ「タイムボカンシリーズ」や、独立後に手掛けたゲーム「ファイナルファンタジーシリーズ」は、キャラクターデザイナーとしての天野の地位を不動のものにした。1990年代後半以降はファインアートの作品を制作し、主に海外で発表してきた。海外での人気を受け、近年、日本でも個展が開かれるなど注目が集まっている。

今回の展覧会「AURUM」は、2013年の「TOKYO SYNC」に続き、同ギャラリーでの二度目の個展となる。「風神雷神図」「百鬼夜行図」など絵画の他、「月に見立てた壷」「中に秘密を内包した箱」など陶芸作品も出展されている。アート作品においても、ビジュアルから無限のストーリーを想像させる完成度の高さは健在だ。

展覧会名の「AURUM(オーラム)」とは、ラテン語で「金」を意味し、光り輝くもの、暁光を由来とするという。本展のハイライトともいえるのが、テーマでもある「金」の使い方だ。

参考画像は「風神雷神図」の左半分「雷神図」のみだが、会場で鑑賞する際は右半分の「風神図」と対比してほしい。「雷神図」の背景に用いられた伝統的な箔が放つ光は、決して主張の強いものではない。しかし、墨の暗雲を背負った「風神図」が隣にあることで、その輝きが際立つことに気付くだろう。そればかりか、対になった女神の表情やポーズに至るまで、見る者にその因縁までも想起させるよう計算され尽くしている。隣の金によって、実は「風神図」の女神こそが物語の鍵ではないかと思わせる深い闇と奥行きが強調されているのだ。

思えばタイムボカンシリーズでは、主人公の少年少女の単純明快な善が、裏の主人公たる悪役の悲哀を引き立てていた。頭領の悪女、手下の小狡い男と愚鈍な男で構成される悪の三人組は、シリーズ内のどの作品でも似たようなキャラクターに見えた。ところが三悪党の衣裳や配色を今改めて見ると、他作品の類似キャラクターと入れ替えることが絶対に不可能だと言い切れるほど、見事に調和が取れていることに驚かされる。「ドロンジョ」に代表される悪女キャラクターが持つ女性美の極みともいえる流線型の肢体は、後に天野がライフワークとして制作し続ける女神図にも通じる。

1970年代当時タイムボカンシリーズをアート作品として鑑賞していた子どもや女子高生はいないだろうが、アーティスト・天野喜孝の片鱗はすでに表れていたのだ。

天野は現在63歳。本人の自由なイマジネーションの解放と、見る者へ与えるインパクトへの緻密な計算、そして半世紀近くにわたって制作の現場で培ってきた技能を兼ね備えた、現代に生きる希少な作家となった。

会期は10月3日(土)まで。輝きを秘めたひとつひとつの「お宝」が誰かに奪われる前に見ておきたい。

Last Updated on September 17 2016
 

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