6AM中心と端もない6PM 展 |
レビュー |
執筆: 宮坂 直樹 |
公開日: 2015年 1月 16日 |
2014年7月、馬喰町に「Alainistheonlyone」という名のコマーシャルギャラリーがオープンした。こけら落としは、今年3月、京都市立芸術大学大学院を修了したばかりの谷中佑輔の個展である。谷中は今年に入って『アートアワードトーキョー丸の内2014』1でグランプリを受賞したほか、既に複数のグループ展に参加するなど、活躍の目覚ましい作家である。 学士課程と修士課程で彫刻科を専攻した谷中は、石や木の塊に、野菜や果物をめり込ませ、それを食べるというパフォーマンスや、自身の身体の形を彫り込んだ彫刻など、観者に身体性や触覚を強烈に喚起させる作品を制作してきた。これまで多くの美術史家が、彫刻の媒体としての特性に触覚を挙げている。例えばハーバート・リードが、「彫刻家にとっては、触覚的価値は二次元的平面に創造さるべき錯覚ではない。触覚的価値は現存するマッスとして、直接伝達さるべきリアリティを形成するものだ。」2と述べているように。『アートアワードトーキョー丸の内2014』のグランプリ受賞作品《山の振動》3(2014年)においても、身体性は重要な主題として担保されているが、しかしこの作品はこれまでとは異なるアプローチで身体性を表現している。《山の振動》は観者に一方向から観られることが想定された作品であり、視覚による触覚の獲得、作家が言うところの「身体の拡張や延長につながるような視線」 に焦点が当てられている。風景の中の対象の大きさや、自分の身体との距離を想像して比較することによって獲得されるような認識の追求であり、「風景として存在している中で触れることができないモチーフを、自分と同じ触れることのできるレベルに持って来る試み」4である。 本展に出品された作品にも、《山の振動》のように、対象への視覚的アプローチによって触覚を獲得させる試みが見られる。ギャラリーの入り口を入るとまず正面に、台座に乗った樹脂製の彫刻、《振動(リュック)》(2014年) [fig.1]がある。その背後に、粘土で造形された作品《振動(東山の木)》(2014年) [fig.2]が壁を背負って配置されており、入り口を背にして左右それぞれに太陽と月をモチーフとした多様な素材からなる作品、《振動(太陽、ぬいぐるみ)》(蝋、木、電球、ラッカー、樹脂、2014年) [fig.3]と《振動(月、ぬいぐるみ)》(ミラー、木、タイル、2014年) [fig.4]が、これらも壁を背にして設置されている。《振動(リュック)》は近景を、《振動(東山の木)》は中景、振動(太陽、ぬいぐるみ)》と《振動(月、ぬいぐるみ)》は遠景をモチーフに制作されている。振動と題されたこれらの作品は、《山の振動》と同じく一方向から観られることが想定された彫刻群である。谷中は、ギャラリーの建築的空間に作品の構成を適合させ、三面の壁それぞれを背に作品を配置している。このように本展の構成は、観者の位置をギャラリーの中央という極めて限定された点に誘導させている。 谷中の作品は、本展の作家のコメントでも引用された5、アルベルト・ジャコメッティや若林奮などが行ったような、自身と対象との間の空間を模索する実践の系譜に位置する。ロダン作品などの近代彫刻は、作品を中心に360度から鑑賞される視角芸術として、モニュメントから切り離されたものであるとしよう。これに対して、ジャコメッティは、自分と対象との間の空間、対象の奥行きを捉えようと彫刻作品を制作した。また、若林は対象との距離自体を主題とする作品や、対象との距離を測定する物差しとしての作品《振動尺》を制作した。しかしジャコメッティの人物具象彫刻の多くや若林の《振動尺》は、基本的に周囲360度から観られるように作られ、設置されているように感じる。 正面からのみ観られる立体作品という点では、谷中の作品はレリーフや近代以前の彫刻、仏像と共通点があるといえる。しかしジャコメッティの対象の認識方法を引用し、対象との距離、空間の獲得を試みる作品を、レリーフや仏像のような壁を背負って正面からのみ観られる彫刻として、三面の壁のある空間に合わせて構成した点が、作家が獲得したインスタレーションとしての方法論の片鱗ではないだろうか。 脚注 6AM中心と端もない6PM 会期:2014年7月24日(木)~2014年8月30日(土) 会場:Alainistheonlyone 参考サイト Alainistheonlyone http://alainistheonlyone.com/ |
最終更新 2018年 8月 08日 |