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ジョシュ・スミス:Paintings
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 9月 02日

画像提供:ヒロミヨシイ copyright(c) Josh Smith

ジョシュ・スミスは、作家として二つの異なる顔を持っている。2004年、ニューヨーク・チャイナタウンのレナ・スポルディングで開催された個展では、「josh smith」と自分の名前を大書した作品シリーズを発表し、目端の利く美術関係者の注目を集めた。しかしその3年後、移籍した名門ギャラリー、ルーリング・オーガスティンでの初個展「Abstraction」では、抽象表現の強度を披瀝するかのような奔放なペインティングのシリーズを展示し、多くの観客の称賛を浴びることとなった。平面に概念的な仕掛けを埋め込み、実験的企投への野心に満ちたアーティストと、混沌とした色彩とマチエールの露出によって、「絵画」そのものの強度に立ち環るかのようなアーティスト。ジョシュ・スミスには、相異なる二つの突出した作家性が見出される。一人のアーティストの表現に、この容易には結びつかない保守・革新の二面性を共存させるものとは、一体何か。

ジョシュ・スミスは自らの名前を描くネーム・ペインティングの意図について、美術史の中で権威を形づくる制度と化してしまった自画像の自明性を宙づりにし、同じくアイデンティティーの記号である自分の名前を描くことで皮肉を投げかけていると語っている。美術史における権威を表現上の標的とするジョシュ・スミスにとって、Abstractionにおける作品シリーズは、かつて美術史に直線的な進歩の観念を持ち込み、ニューヨークをアートの中心地へと仕立て上げた抽象表現主義を視野に入れたものに他ならない。しかし注意しなければならないのは、彼が美術史における様式を自らの表現の対象とするとしても、その性格が他の多くの作家とは決定的に異なっているということだ。 世界の様々な地域で活動する多くの作家が美術史を対象とすることは、アートマーケットにおける戦略やマーケティングに結び付く。しかし、ジョシュ・スミスの表現におけるバリエーションと愚直さは、彼が身を置く制作環境の緊張感を表している。ジョシュの表現上の変遷は、彼が日常的に接する批評家やキュレイター、アーティストとの骨身を削る応答を示すものであり、自らがその内部にいて、また同時に自らの内部にある美術史を相対化しようとする試みである。このような意味において、ジョシュ・スミスが美術史の内部において皮肉や洒脱を用いた必死の抵抗を続けていることは、逆説的にもジョシュこそが、ニューヨーク・アートシーンの正統なる嫡男であること裏付けようとしているかのようである。 2006年のビル・セイラーとの2人展に次いで、hiromiyoshiiでは2回目の展覧会となる本展では、新作のペインティングを含め、ジョシュ・スミスの表現の驚嘆すべき濃密な展開が提示される。

Josh Smith
1976年アメリカテネシー州生まれ。ニューヨーク在住。主な個展に近代美術館 リードヴィヒ・コレクション「Hidden Darts」(ウィーン)、ジュネーヴ現代美術センター、ルーリン・オーガスティン「Currents」「Abstraction」(ニューヨーク)など。主なグループ展としてニューヨーク近代美術館「Book/Shelf」、リヨン・ビエンナーレ 2007、サーチ・ギャラリー「USA Today」(ロンドン)、サーペンタイン・ギャラリー「Uncertain States of America」(ロンドン)、ヒロミヨシイ「Bill Saylor and Josh Smith」など多数。

全文提供: ヒロミヨシイ

最終更新 2009年 9月 05日
 

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