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ULTRA002:エマージング・ディレクターズ・アートフェア
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 8月 26日

「ULRTA001」会場風景(2008年)|photo:Katsuhiro Ichikawa |画像提供:スパイラル

今や世界中で開催されるアートフェア。本アートフェアは、ギャラリー単位で出展される通常のアートフェアとは一線を画し、ギャラリーで実際に作家、作品を選定するディレクター個人を出展単位として開催する新しい試みです。美術が本来持っている個の力を、作品から、展示から、またマーケットから引き出すことを目的とし、美術界の次代を担う若手ディレクターにスポットをあて、常に新鮮な感性を届けるフェアとして継続を図ることを意図しています。「ウルトラ」は語源であるラテン語の「~の彼方に、~を超えて」が意味するように、新形式のアートフェア形成の実現を目指し、またここから美術マーケットが新たな広がりを見せることへの期待が込められています。

25名のディレクターが参加した第1回目。今回は倍の数の51名の若手ギャラリストたちが集結。会場もスパイラルガーデン(スパイラル1F)から、スパイラルホール(スパイラル3F)にまで広げ、個性豊かなブースを展開します。

「ウルトラ」について
御周知の通り、アートフェアの出展単位は基本的にギャラリーです。法人単位、と言っても良いでしょう。殆どが自らの取り扱い作家をグループ展で並べ、販売する、という形式です。一方で大型のフェアの一角で若いアーティストが個展形式での展示販売をある種イベント的に展開する、という方法も数多く取られています。そうした中、この企画である「ウルトラ」はこれまでの方法から一線を画すアートフェアです。「ウルトラ」は法人を出展単位としません。また、アーティストの個展もその旨としません。

Q.ではその単位は?
A.ディレクター。

「ウルトラ」はディレクター個人をその出展単位とする事で、美術が本来持っているであろう、「個」の力を作品から、また展示から、またマーケットから引き出すという目論見のもと企画されます。ディレクター=オーナー=ギャラリーなのだからこれまでのフェアと同じではないか?という意見もありましょうが、責任の所在を個人に移行する事で生まれる、心理的な効果は、いつものアートフェアとはまた違った空気を生み出すでしょう。更に、一つのギャラリーから複数のディレクターが出展する、という事も「ウルトラ」は歓迎します。さらに、出展ディレクターの年齢制限を設けます(出品作家には設定しません)。美術業界の活性化という観点からも若い世代がその表現の場を持つ事は大変に重要な事です。一方で、オープンから何年以内、という事では、画廊がくるくると入れ替わる、目新しいだけのフェアという、逆説的に保守的なフェアになるだけで、未来に残せるものにはなりません。同じ画廊から、若いディレクターが先輩の助言のもと新しい世界観を生み出す、またそのディレクターが独立し、ウルトラ、またより上のグレードのフェアに参加する、そんな状況こそが、より良いマーケット構築につながるものと考えます。こうした事から年齢制限の力を利用し、常に若々しく、常に瑞々しいフェアの継続を図るものです。

ウルトラはその語源であるラテン語の、「~の彼方に、~を越えて」のように、新しいアートフェア形式の提言と形成、それによって新しい形での美術マーケットの体力増強を、その旨としています。手探りではじまった「ウルトラ」は秋深まった10月末、産声を上げたのです。ディレクターという、これまでに無い出展単位のフェアが、どれだけの成果があげられるのか?壮大な実験ではありました。売上げは決して誇れるものではありませんでしたが、7日間で8000人の入場者を数え、再びの開催や、出展を希望する声が多く上がる事となりました。そしてこの秋、再びの開催を致します。より強力に、より新しく。まず、前回25人であった出展ディレクターは、本年は、51人と、一気に倍増します。

出展者選定に当たっては、一軒一軒のギャラリー、一人一人のディレクターへのオファーから始まり、説明会「キックオフ」を開催。多数の参加希望者が、名乗りをあげました。応募の際には出展者自身の作家選定基準や、展示のコンセプトを提出してもらう事で、単に作品を並べてではない、フェアの意識を前面に押し出しました。

その結果、今回は一社から複数のディレクターの参加や、前回出展画廊の別ディレクターの参加、また、所属画廊を持たないインディペンデントなディレクターの参加という「ウルトラ」ならではの状況も発生しています。会場は前回の1階のスパイラルガーデンに加え、3階のスパイラルホールをも使用し、青山のアートランドマークであるスパイラル全館が、「ウルトラ」を支えます。

隔壁を持ったブース構造ではなく、壁単位の展示という、出展者相互の干渉も、よりユニークなビジュアルと、新しい発見を生み出すでしょう。 2009年8月1日 フェアマネージャー 池内務

全文提供: スパイラル

最終更新 2009年 10月 29日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


ギャラリー単位ではなく、ディレクター単位によるアートフェア「ULTRA」の、去年から数えて2回目。40歳以下の、51名のディレクターからなるブースが集められている。去年は会場のスパイラルを一階だけ使用したものだったが、今年は三階も使われており非常に見応えがある。昨年はブースのディレクター名の下に、所属するギャラリー名等が明記されていたと記憶しているが、今年はそれがなくなり完全に個人としてのブースとなっていることにも注目したい。参加ディレクター所属のギャラリー取り扱いの作品が多いものの、それでも個人に還元することに一役買っている。 世話人であるラディウム•レントゲンヴェルケの池内務氏がレセプションの挨拶で話していたように、アートフェアは作品が買われるべき場である。ギャラリーもそうであるのだが、アートフェアはよりそうであるべき場にほかならない。誰が、どう展示されているか、は大事だが、この作品を手に入れたい、そういう気持ちを抱いて会場をまわっていただきたい。それは、見る愉楽とは違う欲望をあなたに発動させるはずだ。


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