| EN |

渋谷清道:決して開けてはいけないよ。
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2014年 2月 21日

渋谷清道 / ダークマター、2012年、アクリル、電球、760×700 mm

渋谷清道は、東京藝術大学で日本画を専攻した。今では、日本画の形式は踏襲してはいないものの、紙(和紙)や胡粉といった素材、あるいは日本画独特の制作過程を、作品制作に取り込みながら現在に至っている。ところで、渋谷にとって日本画(この用語自体明治以降、西洋絵画と区別するために作られたのだが)とは、近世の掛け軸や屏風、襖絵を念頭に置いている。 それらが、それぞれ布置される空間と恒久的ではなく一時的な関係によってプレゼンスされる様を現代的に言えばインスタレーションと同義と見、優れて空間構成を意識したものとして理解している。こうした考えは、空間そのものを作品化しようとする今回の展示においても反映されている。
本展は、二つの展示室から構成される。この二つの展示室を繋いでいる間口を扉で塞ぎ(観者は別の出入り口から出入りが出来るようになっている)、一つは、扉以外は白い壁に何もない空間、今一つは、スパイログラフで作られたメタルポイントによるドローイング作品が展示されている。 16世紀のヨーロッパで全盛を迎えるメタルポイントは、鉛筆が登場するまでドローイング制作には欠かす事の出来ない道具だった。鉛筆ほど状態が安定しないメタルポイントによるドローイングは、時間が経つにつれて色が変化する。こうした性質を逆手にとりながら渋谷は、展示空間と時間の関係を浮き彫りにさせようとする。
さて、これまで渋谷は、作品鑑賞の導入として「人形姫」、「森は生きている」、あるいはイソップ童話の「金の斧、銀の斧」といった特定の物語(主に童話)を使ってきた。これらの童話に内包されている一種のアフォリズム(箴言)は、あくまでも渋谷作品への導入ではあるが、今回は幾つかの童話に共通して現れる「見てはいけない」、「開けてはならない」といった禁止事項=禁忌が部屋を塞ぐ扉に直接的に、 そして、作品制作の過程で使用した、スパイログラフやメタルポイントといった、敢えて自らに課す限定した手段の中に隠喩化しようとしている。 また、スパイログラフといった誰もが扱う事の出来る道具を使用することで、隅々まで作家の手が行き渡るといった強い作家性の有り様を希薄化させ、ある意味での匿名性を作品制作に忍び込ませることで、観者との対話の余地を作り出そうとしている。

天野太郎 横浜美術館 主席学芸員

オープニングレセプション  2月12日(水) 18:00 - 20:00


全文提供:アートフロントギャラリー
会期:2014年2月12日(水)~2014年3月2日(日)
時間:11:00 - 19:00
休日:月
会場:アートフロントギャラリー
最終更新 2014年 2月 12日
 

関連情報


| EN |