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谷井隆太 展
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 1月 27日

《ゆーとぴあ》カラープリント|画像提供:ギャラリー58 copy right(c) Ryuta TANII

谷井隆太は1979年兵庫県生まれ。法政大学文学部卒業。これまでにコニカミノルタフォトプレミオ賞受賞、清里フォトアートミュージアムヤング・ポートフォリオ買上げ等、期待の若手写真家として注目を集めています。今回の展覧会では「ゆーとぴあ」というタイトルで、“人の存在”と“都市の建造物”をとらえた新作約10点(サイズ:A1ノビ600×900mm)を展示いたします。これは、2008年に発表した「えきすとら」「ものみゆさん」に続くシリーズの3作目となります。 3作ともに共通しているのは、大都市を行き交う人々の姿です。それは偶然の一瞬を切り取ったスナップでありながら、まるで人物をオブジェのように配置し、演出しているかのような画面構成になっています。人物を画面から切らず、極力重ならない瞬間をとらえ、群集の中にある“個々の存在”を浮かび上がらせる群像構成は、写真家・植田正治の演出写真や、フランス古典主義の画家ニコラ・プッサンの絵画と共通するものがあります。この作品に取り組んだ動機として、「大都会の雑踏で、人はまるで蟻の群れのように無個性化し、希薄な存在となってしまっているかのように見える。しかしその中で唯一無二のものとしてある確かな人の存在、自由と自律を表現したいと思った」と語っています。最初に発表した「えきすとら」シリーズは、3人から10人の人物で構成され、被写体一人一人の表情や手の動きなどをクローズアップすることで、演技をしているような瞬間を捉えています。次の「ものみゆさん」(=物見遊山)シリーズは、行楽地にのんびりと集う人たちを、広角レンズを使用し高い位置から撮影した作品で、平面的な「えきすとら」よりも奥行きと立体感のある画面構成に変化します。 「えきすとら」「ものみゆさん」の2作は“都市の中にある人の存在”がテーマであったのに対し、今回の新作「ゆーとぴあ」は、社会的な視点でとらえた“都市の建造物と人の存在の関係”が大きなテーマとなります。「ユートピア/utopia」とは、イギリスの思想家トマス・モアの造語で、ギリシャ語の「無い」と「場所」を組み合わせた、「どこにもない場所」という意味も持っています。資本主義経済の中、人類が理想を掲げ、高く豪奢に作り上げた建造物は、自己増殖してゆく生き物のようにも見えます。肥大してゆく大都市の中で、人々は埋もれることなく存在しているのかを問いかけてくる作品です。 撮影場所は、東京タワー、東京ドーム、日本橋三越、フジテレビなど巨大な建物のある場所や、新宿、品川などの歓楽街やオフィス街です。建物はアオリ機能が付いたレンズで歪めずまっすぐに撮影され、揺るぎない存在感を放ちます。肥大してゆく大都市の中に潜む何ものかを問いかけ、そして「人の存在」をまっすぐに見つめた作品です。

【作家コメント】
人の存在をコンセプトに創作してきた。
都会の群衆を初めて見た時、人がいるというより、何か得体の知れぬ動く塊がそこにはあった。
その塊は自分の一部だと気付いたら、何かやり場のない感情に駆られたことを覚えている。
せめて写真の中だけも群衆を個人単位で引き離し、自律した存在にしたく作品を創作してきたわけだが、今作品は都市風景と人間を対峙したものとして扱っている。
時として都市の建造物には人の理想や欲望の反映が見え隠れするが、果たして、その象徴と人はどこに向かおうとしているのであろう。
街の土は掘られ、種は青い空めがけ芽吹く、まだ枯れぬ根は誰を待つ。

【プロフィール】
1979年 兵庫県生まれ、2004年 法政大学文学部卒業
個展: 2008年 「えきすとら」 コニカミノルタプラザ(東京)、「ものみゆさん」 新宿ニコンサロン(東京)、2009年 「ものみゆさん」 大阪ニコンサロン(大阪)
受賞: 2008年 コニカミノルタフォトプレミオ賞受賞、2009年 ヤング・ポートフォリオ作品買い上げ(清里フォトアートミュージアム) ※全文提供: ギャラリー58

最終更新 2010年 2月 01日
 

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