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天明屋尚:風流(ふりゅう)
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 12月 12日

天明屋尚 ≪思念遊戯≫2009年 アクリル絵の具、金箔、木、180x165.5cm © TENMYOUYA HISASHI Courtesy Mizuma Art Gallery

1966年東京生まれの天明屋はレコード会社でアートディレクターとして勤務した後、現代美術家としての活動をスタートさせました。自らの作品を“ネオ日本画”と命名し、絵筆で闘う“武闘派”を立ち上げ、国内外の展覧会への参加や日本経済新聞連載小説の挿画の制作、FIFA2006ワールドカップ公式アートポスター、映画の美術を手がけるなど幅広い活動が注目されています。 自身の成長の過程で受けたアメリカ発祥のHIP HOP文化の影響を日本の伝統美術の様式とを和魂洋才の精神で融合させる事により独自の美学を追求してきた天明屋ですが、近年はより日本的な美に注目しているようにも見えます。“日本的”といえば質素で静かな印象の“侘び・寂び”、“アニメ・マンガ”のポップな一面が一様に取りざたされますが、天明屋が一貫して取り組んできた室町時代の婆娑羅*や江戸時代の傾奇者**といった絢爛豪華に飾り立てる美意識も、現代に受け継がれる日本の美に多大な影響を与えています。その流れを継承するものとして、今年9月に「男伊達***宣言」を発表するに至りました。本展では、刺青を婆娑羅の系譜である男伊達精神の象徴と捉え、自ら描いた男たちの肌に絵筆で丹念に彫りこみます。 反社会的なシンボルとして語られる事の多い刺青ですが、古くは身体装飾や身分などの認識、宗教上の理由で施され、日本での歴史は縄文時代にまで遡ります。その後紆余曲折を経て、17世紀末には浮世絵などの技法を取り入れ、装飾として技術的にも発展を遂げ今のような形になりました。装飾としての刺青は当時の入墨刑とは区別され、勇み肌の者や粋をあらわす町人たちが競って施したといわれています。 本展のタイトル「風流」は「ふりゅう」と読み、「ふうりゅう」とは意味合いが異なります。「ふりゅう」とは人を驚かせるために華美な趣向を凝らした意匠を指し、婆娑羅や傾奇者とともに侘び・寂びとは正反対の美意識を指します。中心となる作品「思念遊戯」では金箔を背景に闘う二人の男性の刺青から、それぞれタコとコウモリの形をした想念が闘気のように現れるという天明屋の得意とする異質なモチーフの混合が描かれており、その額縁や装飾にも趣向を凝らします。また、絵の世界に兵法を適用したという、宮本武蔵の五輪の書にアイデアを得た5枚組みの作品も展示されます。いずれも天明屋の研ぎ澄まされた美意識と、伝統が絶妙に混ざり合った作品となっており、実際の人の肌では再現する事の出来ない緻密な表現にも注目です。 均一化された社会の中で、独自の視点で新たな価値観を作り上げていく天明屋は、日本の美のあまり語られる事のなかった側面に私たちの目を向けようとしています。また、刺青とそれを取り囲む世界の独特の美学、受け継がれてきた知恵と練成されたテクニックをより広く紹介していきたいという意図も込められているのかもしれません。 *室町時代に下克上の元となる武士階級から発生したことから、身分秩序や権威を軽んじ、粋で華美な服装や伊達(だて)で奢侈な振る舞いを好む美意識のこと。 **戦国時代末期から江戸時代初期にかけて流行した婆娑羅の系譜に連なる社会風潮。異風を好み、派手な身なりをして常識を逸脱した行動に走る者たちのこと。織田信長や前田慶次が有名。 ***婆娑羅の系譜に連なる美意識で、男としての面目を立てるために、強きをくじき弱きを助け、仁義を重んじ、そのためには身を捨てても惜しまない気概と生き方のこと。 ※全文提供: ミヅマアートギャラリー

最終更新 2009年 12月 16日
 

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