近代から現代まで、アートは創造する「主体」が大前提になってきました。言うまでもなくこの主体は「個人」とされ、それは近代社会が個人を中心として組み立てられていることの反映だったわけです。しかしポストモダンと呼ばれる時代が始まるとともに、この主体=個人に懐疑の眼が向けられ始めます。主体とは孤立し、自足したものではなく、もともと他者の存在を織り込んだ多様体、複数の主体=欲望が束ねられたものではないかという問題意識が生まれ、作家たちも自己内部の複数の欲望に着目しはじめます。田井中善意は作為的にではなく、いわば自然にこの流れを体現する多重人格的な表現活動を展開している作家です。
本展はその田井中の内部に存在する一つの人格=神ヴィシャスが制作した作品を展示する展覧会として企画されました。神ヴィシャスは他の人格とともに、田井中のの多重人格的、ポリフォニー的な表現世界を構成する一員であるわけです。
神ヴィシャスの作品は、悪あるいは死の視点から生をとらえ返そうとしており、いわば積極的なニヒリズムが表現されています。絶望の中に希望を、希望の中に絶望を見るという逆説的な視点から制作された作品群は、呪術的なパワーを持っており、ダルな日常に予想を超えた方向から飛び込んできて私たちの意識を賦活してくれます。どうかご期待ください。
[作家コメント] 神ヴィシャスという人物は私のネット上だけのアバターでした。 (ジン・ヴィシャス)と呼びます。 名前はsid viciousからとりました。
vicious=悪意のある、悪性の、危険なという訳で、自分のviciousな部分をかき集めた存在です。
最初は自分がtwitter等で吐く悪意のある言葉から生まれ、そこにアイコンがつき個別のアカウントとして独立しました。 そのうち私自ら神ヴィシャスに扮してメイクアップして写真や動画を撮ったりしました。
いつからか自分がつくっている美術作品も「これは僕のもの、これはヴィシャスくんのもの」といった感じで分類するようになりました。
彼は存在は次第に大きくなりこの度は神ヴィシャスの個展を開くことになりました。 私ではなく神ヴィシャスの個展です。
彼の作品からは呪いとも祈りともつかないような行為の跡が見てとれます。 彼の不安定な生活や感情的な性格とは対照的に、冷静で穏やかな雰囲気すら感じす。 同時にそこにはとても大きな虚無感が漂っています。
もう神様はいなくなってしまった。 それでも彼はその祈りの記憶を手がかりに対象を探し続けているのかも知れません。
" Oh we're so pretty,,, oh so pretty,,, A vacant " Sex Pistols PRETTY VACANT より
田井中善意
[作家プロフィール] 田井中善意
1984千葉県生まれ 2013東京芸術大学美術研究科工芸専攻修了
主な展示
2008 東京芸術大学卒業制作展 2008 konoyubi ART 2008 2008 千葉トリエンナーレ アンデパンダン展 2009 konoyubi ART 2009 2011 ヒコ・みづのジュエリーカレッジ卒業制作展 2011 トウキョウアーバンアート 2012 GEISAI#16 2012 個展「素晴らしきこの世界」 2013 東京藝術大学卒業・修了制作展 2013 藝大アートプラザ大賞受賞者招待展
オープニングパーティ 初日18:00~20:00
全文提供:unseal contemporary
会期:2013年11月15日(金)~2013年12月22日(日) 時間:12:00 - 19:00 休日:月~木曜 会場:unseal contemporary
|