migratory -世界に迷い込む |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2009年 11月 19日 |
牡丹靖佳≪Bonne≫2009年|oil, pencil, color gesso on canvas|set of 2 / each: h147.5 x w 97 cm|画像提供:アートコートギャラリー copy right(c) Yasuyoshi BOTAN 本展で紹介する3人のアーティスト、牡丹靖佳・山野千里・林勇気は、自らが経験する日常の様々な現象や状況を独自の視点から捉え直し、それぞれに異なる表現方法と感性によって開かれた新鮮な世界の像として私たちに提示します。 社会を構成しているあらゆる事物の間に潜む関係性のコードを注意深く観察しながら、色、輪郭、形態、動きなどの視覚的・物理的な要素を基準としたルールに則って巧妙に組み換え、繊細な筆致によって密やかな物語性を帯びた絵画のなかに再構築する牡丹靖佳。毎日の生活の中で出会う動物や植物、身近に起こった出来事、夢の中や幼い頃の記憶といった私的な体験から不意に浮かんでくるイメージを、陶という素材の特質を活かしながら、自由な発想でつなぎ合わせ、独特のユーモアと愛嬌に満ちた小世界を作り出す山野千里。 私たちが日々、無数の情報が溢れる世界と接触する中で抱くリアリティーの微細な変化を、自身の経験において敏感に感じ取り、写真やインターネットの画像を切り貼りするという単純な行為の積み重ねによって、不思議な静寂と儚さに満ちた映像世界へと昇華させる林勇気。彼らは毎日の生活の中で経験する様々な現象や出来事を細やかな視線で観察し、そこから抽出された断片的なイメージや記憶、かすかな違和感や変調の兆しをきっかけに、そのありふれた日常の世界にもう一度足を踏み入れます。そこで彼らは普段の生活で身につけた慣習や知識の道筋から逸れ、世界を形づくる様々な要素や領域を軽やかに往還しながら、柔軟な想像力と独自の方法論によってそれらをつなぎ合わせ、編成し直すことで世界の新たな様相を炙り出します。 こうしたプロセスは、いつもの帰り道、ふとしたことに気をとられて方角を見失い、心もとなく彷徨いながら、それとは気づかず眺めたいつもの街角の風景が、普段とは全く異なる情景として目の前に立ち現れるという、迷子になったときの知覚の変化や発見の経験に例えることもできます。彼らは言わば、日常の経験の奥へと自ら進んで迷い込み、その中を予め用意された地図に頼らず自由に歩き回ることで、自分が生きる世界に新たな情景を見出すのです。 迷子になって彷徨う彼ら足どりとその余韻に身を委ね、自らの想像力を働かせつつその細部を丁寧にたどり散策することは、彼らが世界との親密な関係性のなかで経験した周遊のプロセスを追体験することでもあります。彼らの後を追って世界に迷い込んだ私たちは、その歩程で、自分自身を取り巻く世界に潜む、もうひとつの情景に出会うかもしれません。「migratory = 漂流性の、 放浪性の」という言葉をテーマに、展示空間の広さを活かした意欲的な新作によって展開される3人の作品世界をどうぞお楽しみに。 ※全文提供: アートコートギャラリー |
最終更新 2009年 11月 24日 |