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山本晶:Stepping IN|OUT
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2010年 3月 11日

《Stepping IN|OUT》510x405mm|画像提供:アートフロントギャラリー|copy right(c) Aki YAMAMOTO

この度アートフロントグラフィックスでは、目に見えるものの形、影などを一つの画面に色彩として表現する作家、山本晶の個展を行います。山本は1990 年代半ばに画家として本格的に活動を始め、シェル賞、VOCA、損保ジャパンなどの展覧会を通じて平面を主体に表現する作家としてその実力を評価されてきました。2005 年に文化庁在外研究員としてニューヨークに一年間滞在し、フェルトなど、それまでと異なる素材にも取り組みはじめています。アートフロントグラフィックスでは2008 年春に続く2 回目の個展となります。 山本の作品は作家が見たさまざまなものを一つの画面にまとめ上げることによって成り立っています。それは時に風景であったり、光や影であったり、雑誌などに載っているものであったりしますが、いろいろな事象が色の面としてオーバーラップしながらシルエットや余白としてキャンバスの中にあらわされます。はっきりと具象的には描かれていませんが、それでも何となく見ていると、知っているものの形を連想できたりして、描かれたものを想像する楽しさが山本の作品にはあります。 私たちは実際に見た風景やものを網膜に映った視覚的な像として記憶しているわけではありません。常に関心のあるものを選び、記憶としてストックし、回想として抽出しているはずです。あるいは私たちは目を開けてぼんやり眼の前の風景を見ながらも、同時に過去に見たものや人の顔を思い浮かべることができます。私たちが見るものや思い描くものはこれまで実際に見たものや、想像したことの複合体であるといえます。このような頭の中で思い出す記憶の中の風景やものに山本の作品風景は近いような気がします。山本の作品では明確に何かの形をとった線が現れるかと思うと、端のほうではその輪郭線と色は他の何かの輪郭線と重なりながら、別の形に溶け込んでゆきます。このようにひとつの記憶のポケットの中に「出てもいるし入ってもいる(in ¦ out)」状態が私たちの記憶なのかもしれません。 山本の1990 年代の半ばから2005 年に文化庁在外研究員としてニューヨークに行く頃までの作品と今現在の作品を比べると作風がどこかで大きく変わったことに気付きます。アメリカの50-60 年代の抽象表現主義のような勢いのある筆致とどこか伝統的なバランスの良い画面構成を特徴とするのが2005 年くらいまでだとすると、アートフロントグラフィックスで2008 年春に個展を開催する頃にはストロークの線としての筆あとはごく控えめになり、むしろ色彩や形の構成に作家の関心はシフトおり、近年はより一層その特徴が強くなってきている印象があります。筆致に重きを感じさせないことで山本の平面自体は作家の表現や感情を読み取るものというより、よりニュートラルな記憶を投影させるスクリーンのような存在により近づき、むしろそこに何をどのように選び、どう映し出していくのかが作品の課題となっているようです。これからますます楽しみになってゆく山本の平面世界をぜひお楽しみください。今回は最新作によって構成された展覧会となります。

略歴:
1995 武蔵野美術大学大学院造形研究科修了
1997 ホルベインアートスカラシップ奨学者
1999 文化庁インターンシップ研修員
2005 文化庁在外研修員として渡米 個展:
1998 ギャラリー山口(東京)
1999 ガレリアラセン(東京)
2000 「切断する線と色彩の発生」ギャラリーM(東京)
2003 ギャラリエアンドウ(東京)
2004 ギャラリエアンドウ(東京)
2007 ギャラリエアンドウ(東京)
2008 アートフロントギャラリーグラフィクス(東京)
2009 ギャラリエアンドウ(東京)
2010 アートフロントギャラリーグラフィクス(東京) 著作:
2003 『ノート 置かれた色によってそこには消された色がある』,『造形学研究』,武蔵野美術大学出版局,酒井道夫,金子伸二編 その他:
2001 「ギャラリーaMトークショウ・現代美術の作法」武蔵野公会堂(東京)

全文提供: アートフロントギャラリー

最終更新 2010年 4月 02日
 

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