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野村 仁:身体/知覚 又は 私を「私」とおもう私
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2013年 8月 12日

《age: M→F》1978 ©Hitoshi Nomura

野村仁は、40年以上にわたる制作活動において、身の回りの現象から地球の活動、月や太陽を はじめとする天体の運行に至るまで、多様なスケールの事象をモチーフとする一方で、いかなるときも、 一貫して自らの身体との関係性を軸に対象と向き合い、そこに生じる知覚のはたらきを出発点として 表現を展開してきました。

活動の最初期にあたる60年代終りから70年代、野村は、時間の経過に晒され変容する物質を通して、 存在についての根本的な問いを提起する作品を多数発表しましたが、人間という存在もまた、 作家自身の身体を素材に、そうした問いの中心的題材として取り上げられました。1975年に制作され、 本展が約30年ぶりの公開となる《age: M→F》*は、性別、年齢、地位などを読み取るための外見、 すなわち社会における相互認識のためのコードを自在に操作してみせる写真およびビデオ作品であり、 人間の身体がニュートラルな客体として扱われることの多い同時期の野村の表現の中では異色といえます。 しかしながら、ここには、物質的存在=「抽象的な身体」であると同時に、自己と他者が織り成す 複雑なシステムに組み込まれた社会的存在=「特殊な主体」でもある人間の多義性を早くから認識し、 検証しようとする野村の透徹した意識が感じられます。

本展では、《age: M→F》を基点とし、この初期作を現代社会が孕む諸問題と照らし合わせることで 生まれた最新作《H. error: C→Si》、さらには、人間が直接的には触れることのできない宇宙空間= 非-人間的な世界の事象を映し出した作品とともに展示することにより、人間を、外界からの影響を 受けて変化し続ける非永続的な存在として再提示し、身体を基盤として世界を知覚する「私」の存立は 果たしてどこまで可能なのかを問い直します。

自らの表現行為の要であり続けてきた身体と知覚そのものに立ち返り、その臨界点を探る新たな試みと、 写真や映像に潜む「見る/見られる」という支配的構造の利用、媒体の変換に伴う次元の増減や視覚情報 の操作など、メディアそのものに対して作家が早期から抱いてきた問題意識にもご注目下さい。

*《age: M→F》は、写真作品が1975年に制作された後、それをもとに1978年に同ビデオ作品が制作された。

[作家プロフィール]
野村 仁 Hitoshi Nomura
1945 兵庫県に生まれる
1967 京都市立美術大学卒業
1969 京都市立美術大学専攻科修了

初期の主な活動(参照:水戸芸術館現代美術センター編「野村仁ー生命の起源:宇宙・太陽・DNA」図録 他)
1969 3 月、「美大作品展」(京都市美術館)にて、段ボールが自重によって崩れていく作品《Tardiology》を発表。
10 月、「第 2 回現代の造形(野外造形’69)」(鴨川公園、京都)に、ドライアイスが昇華する過程を提示する作品《Dryice》を出品。
1970 3 月、「京都アンデパンダン展」(京都市美術館)に、写真作品《Dryice: 1969》と《道路上の日時》を出品。
5 月、中原佑介が総コミッショナーをつとめた「第 10 回日本国際美術展ー人間と物質」(東京都美術館)に参加。
7-8 月「現代美術の動向展」(京都国立近代美術館)に参加。
10-11月、《Graphilm》を撮る(16mmフィルム /16mmカメラを持って30秒間ジャンプし、その直後の血圧と脈拍を測定する。)
《Graphilm》の血圧と脈拍部分のみをプリントした写真作品《Jump》を制作。
1971 3 月、「京都アンデパンダン展」(京都市美術館)に、《Jump》を出品。
11 月、「すっかりだめな僕たち展」(京都市美術館、京都書院)に《毎日 10 分間、本屋の TV に写る N》を出品。
1972 1 月、《カメラを手に持ち腕を回す:人物、風景》《重心の移動》を撮る。(16mm フィルム)
2 月、水中で呼吸する自身の横顔をとらえた《水の中での Breathing》を撮る。(16mm フィルム)
3月、16mmムービーカメラを使って「見るもの全てを写したい」と思い、《photobook又は視覚のブラウン運動》の撮影を開始。
(1982 年 2 月まで継続。)
1975 《age: M→F》写真作品を制作。
『月』‘moon’ score シリーズを開始。以後『星』‘pleiades ’ score(’78~)、『鳥』 ‘birds’ score (’83~)、『鶴』 ‘Grus’ score(’04~) を開始。
1978 2 月、《age: M→F》ビデオ作品を制作。
10 月、太陽を対象とした最初の作品を制作。
1979 2 月、《The Earth Rotation》シリーズを開始。
4-6 月 「ヴィデオ:東京から福井と京都まで」(ニューヨーク近代美術館)に《age: M→F》ビデオ作品を出品。
1980 太陽の軌跡を魚眼レンズを用いて撮影・記録する『太陽』シリーズを開始。

主な個展
1987 「近作展 2・野村仁 Spin & Gravity」 国立国際美術館/大阪
1989 「Cosmo Chronography」 INAX ギャラリー/東京
1994 「CRYO PHENOMENA」 アートギャラリー・アルティアム/福岡
「作品集『Time・Space』」出版記念展」 ギャラリー KURANUKI /大阪
1995 「CHANGE over TIME」 スパイラルガーデン/東京
「CHRONOSCORE」 東京都写真美術館/東京
1996 「CHRONON & PROTOMORPH」 中京大学 C・スクエア/名古屋
「Cosmic Sensibility が作用して・・・」 ギャラリー KURANUKI /大阪
「Soft Landing Meteor & DNA 」 ギャラリー GAN /東京
1998 「One with the Cosmos」 ギャラリー KURANUKI /大阪
1999 「Mission to America & Jurassic Giant Tree in Tokyo」ギャラリー GAN /東京
2000 「New Vision Navigator-ソーラーカーによるアメリカ大陸横断記録-」中京大学 C・スクエア/名古屋、京都芸術センター/京都
「野村仁-生命の起源 : 宇宙・太陽・DNA-」 水戸芸術館現代美術センター/水戸
2001 「野村仁-移行/反照-」 豊田市美術館/豊田
2004 「新作展-chroma & chromatic-」 アートコートギャラリー/大阪
2006 「Hitoshi Nomura-An Introduction, Photo works 1975-92-」 MaCaffrey Fine Art /ニューヨーク
「野村仁-Cosmo-Arbor-」 アートコートギャラリー/大阪
「野村仁『見る』出版を記念して」 アートコートギャラリー (*仮スペース ) /大阪
2007 「Hitoshi Nomura: Chrono & Chroma」 アートコートギャラリー/大阪
2008 「Hitoshi Nomura: Gravitational Shape & Flavor -The Sun, Meteorites and The Body-」アートコートギャラリー/大阪
2009 「野村仁:変化する相-時・場・身体」 新国立美術館/東京
「野村仁退任記念展:View From Space, From Here On...」アートコートギャラリー/大阪
2010 「Hitoshi Nomura : Marking Time」MaCaffrey Fine Art /ニューヨーク

主なグループ展(1990~)
1990 「移行するイメージ-1980 年代の映像表現」(京都国立近代美術館/京都、東京国立近代美術館/東京)
「JAPANISCHE KUNST DER 80ER JAHRE」(Frankfurter Kunstverein/フランクフルト、Museum of Modern Art/ウィーン 他)
1991 「線の表現-眼と手のゆくえ」(埼玉県立近代美術館/埼玉)
「A Cabinet of Signs」(Tate Gallery /リバプール、Whitechapel Art Gallery /ロンドン 他)
1992 「ビデオ・新たな世界-そのメディアの可能性」(O 美術館/東京)
「第 9 回シドニー・ビエンナーレ-The Boundary Rider」(Art Gallery of New Sounth Wales /シドニー)
1993 「BREDA FOTOGRAFICA ’ 93」(De Beyerd Breda /ブレダ , オランダ)
「Time & Motion」(ICP /ニューヨーク)
1994 「時間/美術-20 世紀美術における時間の表現-」(滋賀県立近代美術館/滋賀)
「空間・時間・記憶-Photography and Beyond in Japan-」(原美術館/東京) 
1995 「1970 年 物質と知覚:もの派と根源を問う作家たち」(岐阜県美術館/岐阜 他)
1996 「Japon 1970-Matiere et Perception」(Musée d\'Art Moderne Saint-Étienne /サン・テティエンヌ , フランス)
1997 「重力-現代美術の座標軸」(国立国際美術館/大阪)
「日本の現代美術-思考と形象」(豊田市美術館/豊田)
1999 「ART1999 CHICAGO」(Festival Hall, Navy Pier /シカゴ)
「第 8 回ふくいビエンナーレ-身体と記憶-」(福井市美術館/福井)
2002 「未完の世紀:20 世紀がのこすもの」(東京国立近代美術館/東京)
2003 「The History of Japanese Photography」(The Museum of Fine Art, Houston /ヒューストン 他)
「盗まれた自然」(川村記念美術館/千葉)
2004 「痕跡-戦後美術における身体と思考-」(京都国立近代美術館/京都、東京国立近代美術館/東京)
2005 「風景遊歩」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館/丸亀)
「アート & テクノロジーの過去と未来」(ICC /東京)
「もの派-再考」(国立国際美術館/大阪)
2006 「美術館は白亜紀の夢を見る」(埼玉県立近代美術館/埼玉)
2007 「非芸術反芸術芸術」(Getty Reseach Institute /ロサンゼルス)
「宇宙御絵図」(豊田市美術館/豊田)
「天体と宇宙の美学」(滋賀県立近代美術館/滋賀)
2009 「ヴィデオを待ちながらー映像、60 年代から今日へー」(東京国立近代美術館/東京)
「Enokura, Nomura, Takamatsu : Photographs 1968 - 1979」(McCaffrey Fine Art /ニューヨーク) 
「エコ & アートーアートを通して地球環境を考えるー近くから遠くへ」(群馬県立館林美術館/群馬) 
「医学と芸術展―生命と愛の未来を探る:ダ・ヴィンチ、応挙、デミアン・ハースト」(森美術館/東京)
「First Passage」(アートコートギャラリー/大阪)
2013 「Re: Quest ー 1970 年代以降の日本現代美術」(ソウル大学校美術館/ソウル)

主なパブリックコレクション
北九州市立美術館、岐阜県美術館、京都国立近代美術館、京都市美術館、国立国際美術館、埼玉県立近代美術館、滋賀県立近代美術館、千葉市美術館、東京国立近代美術館、栃木県立近代美術館、姫路市立美術館、兵庫県立美術館、広島市現代美術館、目黒区美術館、和歌山県立近代美術館、Dallas Museum of Art、Getty Research Institute, Los Angels、International Center of Photography, New York、 Musée d'Art Moderne Saint-Étienne、Museum of Modern Art, New York、San Francisco Museum of Modern Art

◆オープニングレセプション:9月28日(土)15:00–17:00

全文提供:アートコートギャラリー


会期:2013年9月28日(土)~2013年10月19日(土)
時間:11:00 – 19:00(土曜日 11:00-17:00)
会場:アートコートギャラリー

最終更新 2013年 9月 28日
 

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