角文平:NEST |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2012年 1月 22日 |
角文平ほど明快な作品を製作するアーティストはあまりいないのではないだろうか。作るというよりも日常のものを組み合わせることが彼の製作である。モチーフは家、クレーン、お土産の大阪城や木彫りの熊、椅子に戦車。誰が見てもそれ以外の何物ではない。しかしそれら日常的なものがこの作家の手にかかるととたんに日常のものではなくなる。日常品の組み合わせというとロートレアモンの「手術台の上のこうもり傘とミシンの出会いのように美しい」という言葉を思い出すが、角の作品にはシュルレアリストたちのような彼らの「美しさ」の地平を目指す気配は全くない。もちろん現代でも多くの作家が異なる日常のものを組み合わせている。そして結果的には妖怪のようなボッシュの絵や百器夜行の絵巻に出てくるような異形のどろどろした変態が生まれる場合が多い。アニメーションや漫画などポピュラーカルチャーでも近年こうしたモチーフが現れることが多いようである。一方、角の作品はこれらの系譜とはまったく印象が異なる。ユーモアを感じると同時に、非常にさっぱりしている。例えば発芽のシリーズでは木彫りの熊、椅子、引き出し、ブラシ、とあらゆるものから芽が伸びてゆく。盆栽をモチーフとした作品では綺麗に送電線を支える鉄塔が松のようにゆがんで植木鉢から立ち上がっている。 それでは異形のものと角の作品の違いはどこであろう。シュルレアリストや異形のものを描く作家たちはその組み合わされた集合体としての像に美しさや恐ろしさを感じさせるのに対し、角の作品における組み合わせはどちらかというとモンタージュ写真のようである。組み合わせそれぞれから別な意味を引き出そうという作業のようである。例えば大阪城と戦車の組み合わせからは奇異な戦車という以上に、「大阪城」のもつ意味「お土産」の意味、「戦車」の意味「プラモデル」の意味、と作家は見る人間に意味を共用することもなく、まずそのユーモラスな姿で私たちをひきつけ、集合体のイメージの奇異ではなく、別のイメージや意味を想像するという余地をきちんと残してくれている。角文平は特異な作家だと思う。 [作家プロフィール] 全文提供:アートフロントギャラリー 会期:2012年1月7日(土)~2012年1月29日(日) |
最終更新 2012年 1月 07日 |