逢坂卓郎 鈴木ヒラク:地表より遠く離れて |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 12月 14日 |
TALION GALLERY の幕開けとなる初の展覧会として、2011 年11 月19 日(土) より2011 年12月28 日(水) まで、逢坂卓郎と鈴木ヒラクによる二人展「地表より遠く離れて」を開催いたします。世代や制作メディアの差を超えて、それぞれに先鋭的な活動を展開し、深く共鳴しあう二人のアーティストによる本展を、是非ともこの機会にご高覧ください。 日本のライトアートの草分けである逢坂卓郎は、地球に降り注ぐ宇宙放射線を視覚化する一連の作品を世界各地で発表し、光という制作素材のいまだ汲み尽くされない可能性を提示してきた。この一連の作品では、それぞれに何万光年、何億光年という時空を超えて地球という極小点にたどり着いた宇宙放射線が、シンチレーション検知器によって捉えられ、LED の明滅へと変換される。そこで視覚的に現れるものは、テクノロジーによって検出された自然現象の結果にすぎないが、その時間的・空間的背景をめぐる想像力によって、光の明滅に特異な強度と、通時的かつ共時的な普遍性を与えている。逢坂卓郎による光は、アートとテクノロジーの差異を無効化し、地球全体をローカルなシステムとして相対化する視点へと結びついている。 2000 年の越後妻有アートトリエンナーレでは、そのオープニングの皆既月食の時に、棚田に設置された18 個の巨大な鏡によって月光を捕らえる「Lunar Project」を行い、発光現象に対する一貫したアプローチと関心が、宇宙という外部空間へと連続していることを示している。これまでの芸術表現にとっての外部領域である宇宙の只中において、この作家のアプローチが具現化しうることを示したのは、2008、09、11 年の三度にわたりJAXA と共同で実施された、地上400km を浮遊する国際宇宙ステーション内部での芸術実験である。ある宇宙飛行士が「宇宙で芸術が可能だとすれば、それは光だ」と述べたように、逢坂卓郎による光の作品は、宇宙空間という極限的な状況においても、その普遍的な強度によって、最 先鋭の存在として可能性の領域を走り続けている。 本展では、これまでの放射線を光に変換する一連の作品を進化させ、それぞれに異なる三種類の放射線 を視覚化し展示空間を構成する。三種類の放射線とは、一つは宇宙から降り注ぐ宇宙線であり、もう一つは地中から立ち上がるガンマ線、そして最後の一つは、ガイガーカウンターによって検知される大気中の放射線である。放射線の測定値が日々取り沙汰される社会状況において、逢坂卓郎の一貫した取り組みがシリアスな今日的問題と交錯する、興味深い展示となる。 鈴木ヒラクにとってドローイングを描くということは、新たな文明をゼロからつくりあげること、あるいは人類史のオルタナティブな可能性を提示することにひとしい。「道をつくってそこを人が行き交う、その道をつくるということもドローイングだし、獣道だってそうだし、星座だったり星の軌跡だったり、そういうものもドローイングだと思う」と作家自身が述べるように、そこで描き出されるのは、内面の表出や意味の交換ではなく、「技術の起源」としてのドローイングであり、所与の時空感覚をも相対化しうる特異な記号の発生、つまり「文字の起源」としてのドローイングである。それは、文字が存在そのものであったとき、技術が自然と対置される以前の、文明の黎明であり、世界の開闢である。鈴木ヒラクは、描くことによって言語以前、あるいは言語以降の歴史を触知する。 ドローイングを中心として、インスタレーションや壁画、ライブドローイングなど表現形態は多岐にわたるが、そこでは常に濃密な身体感覚が周囲へと開かれ、そのリアリティの変容に向けて投じられている。紙とペン、日常のありふれた鉱物や人工物だけを用いて、周囲を飛び交う無数のシグナルを発見し、鮮烈なフィードバックを引き起こす。その変容のプロセスを可能とするのは、身の回りのあらゆる光景を触知可能なものへと変換し内在化する、この作家のホリスティックな身体性である。鈴木ヒラクが何かを描くとき、あらゆるものが可感的であり、可知的であり、可動的なものとなる。近年では、「六本木クロッシング2010 展:芸術は可能か?」展への出展のほか、コムデギャルソンのデザイナー川久保玲とのコラボレーション、様々なミュージシャンとのセッションによるライブドローイングなど領域横断的な活動で注目を集めるが、鈴木ヒラクの行為は一貫して、ドローイングという普遍的営為の追求へと向けられている。木漏れ日の残像も、アスファルトの欠片も、鈴木ヒラクにとっては過去と未来を透過する兆候であり痕跡なのである。それは物質以前の生命、生命以前の物質とも呼べるような、存在そのものの痕跡である。 本年は、8 月までロンドンで約3 ヶ月間の滞在制作を行い、続くウィンブルドンでの個展を成功させ、またすぐに9 月からアジアン・カルチュラル・カウンシルの助成によってニューヨークでの半年間の滞在制作に向かうなど、加速度的に活動の密度を高める鈴木ヒラクは、「やっと本番が始まった」と言う。本展では、ロンドン滞在中に制作されたドローイングの新シリーズと、初の立体作品、さらにニューヨークで制作中の新作ドローイングを展示する。鈴木ヒラクにとって初の試みである立体作品は、ロンドンの伝統的な鋳造所で、職人に一から鋳造法を習い、溶けた鉱物を鋳型に流し込んでつくったアルミニウムの連作である。人間が初めて文字を刻んだ瞬間を再現する、架空のロゼッタストーンとしてつくられたこの立体は、「初めてのやり方だったけど、すごく自分に向いている」と鈴木ヒラク自身が述べるように、画期的な作品となっている。 逢坂卓郎 Takuro Osaka
全文提供:TALION GALLERY 会期:2011年11月19日―2011年12月28日 |
最終更新 2011年 11月 19日 |