中川トラヲ:ポストスクリプト |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2011年 1月 14日 |
中川といえば、流れるように自由な色彩が不思議な浮遊感で見る者を一瞬にして魅了するペインティングですが、今回発表される新作は、ガラス板や薄手の合板などを支持体として制作されています。 昨年の個展「しじまからことといへ」では、敢えて普段は制作しない立体作品を空間の中心に据えて、それと対比的に平面作品を見せる、という展覧会構成によってその糸口を掴もうとしていたように、自身がこれまで疑問なく続けてきた絵画が「平面であるということ」に対してふと感じた、しかし根源的な疑問に対して答えを手繰り寄せようとしているように思います。 ガラスや合板などに描く、という手法自体は、殊更に目新しい訳ではありません。しかし、これまでドローイングや下書きすらしない、キャンバス直書きというスタイルで制作してきた中川にとって、半ば技法の一部とさえなっていたキャンバスを離れるということは、長年構築してきた作品との関係性から離れることでもあります。 その点において今回の「ポストスクリプト」という展覧会名は、非常に興味深く思えます。後書きや追伸といった常用の意味の他にも、プログラム言語としての「PostScript」、語源的に「script(書かれたもの)」後の、とも捉えられ、こちらの想像力を大いに掻き立てると同時に、これまでの中川の作品イメージとあまりに乖離した響きに、一体どのような結びつきを見出すべきか戸惑わせる言葉でもあります。ここで恐らく中川がイメージするのは、post(≒after)+script(≒something written)という言葉の作りにあるように思えます。 中川の作品は得てしてプロセスの絵画であり、汚れや皺などその時々の思いがけない外因が期せずしてイマジネーションを増幅させるきっかけとなってその過程を繰り返し辿って一つのイメージを形作ります。その完成までに至る行程はあたかもキャンバスという枠の中でそうなるべき筋道を記した「script」(=台本あるいはプログラム)のようで、では、その行程を経て更に先にあるのは何か?という問いが、今回中川が自身の中から新たな側面を掘り当てようと欲するその動機となっているように思えます。 ※全文提供: 児玉画廊 | 京都 会期: 2011年1月15日(土)-2011年2月19日(土) |
最終更新 2011年 1月 14日 |