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Eiichi Nishimori
Events
Published: August 21 2012

Eiichi Nishimori

拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊|京都では9月8日(土)より10月13日(土)まで、西森瑛一個展「さまよえるきらきら」を下記の通り開催する運びとなりました。
西森は児玉画廊では2007年の個展「(A) SONG (S)」で初めて紹介し、木炭によるドローイングを発表致しました。黒々と線描が無限に重ねられ、延々と線を描くという行為に没頭していく中で、形状、リズム、イメージをその混沌とした線の中から導きだしていくような「虚空がにじむ音」と題された100点近くに及ぶその作品は、徹底した「対自」によって生み出される非常に内省的なものとなっていました。続く2009年の個展「Tinctura」では一転してゲーテの色彩論に基づく理論的な作品の展開を見せました。色鉛筆や水彩によってあわく彩られた画面は、色彩であるにもかかわらず「光」を主題として描かれて、まさにゲーテの言う所の「Tinctura」、すなわち物質から遊離した色彩、感覚的に明暗を直感させる表現を実現するものでした。そして、昨年の「木々のために」では更に意識を変化させて、より「純粋に」描く、感覚に素直に身を委ねて描く、ということに徹した一連の作品を発表しました。何を描くのか、ということだけを漠然と用意し、例えば虹を描く、と決めたものの、それをどのように描くかは決めないで筆を持つ。そうすることで描きながら虹という光の現象そのものを色彩によって即興的に表現していくことになり、今までのように何かに固執して描くのではなく、意識と感覚を解放した「ポジティブ」な絵画を実現しようという試みでした。過去の作品から大きく変化し周囲を驚かせましたが、それまでの西森は執拗に描くことで「描けない」自分に抗っていたのであり、その否定的思考を覆す事によって自身が設けていた制約を解き、新たな境地に立つことができたのでしょう。
その思考の反転を経て、今回は「ありのままを肯定すること」「何かを肯定的に解釈し直すこと」を展覧会の中核に置いています。西森の弁を借りれば、ヨハネの福音書において「始めにロゴスありき」とあるように、「何かを示し表す」という概念があることによって何事も理解され区別され、そこから否定も生まれるのであり、西森が今言う「肯定」とは、一旦その原初的な見地に立ち返ることを意味しています。「何かを示し表す」ためにあらゆる既存の意味や形を寄せ集めたコラージュ的な絵画ではなく、「一つの有機的な絵画」というものを「肯定」によって導きだそうとしている、と西森は言います。絵画として「何かを示し表す」行為の中で、上手くそれを描かなくてはならないという理想を前に、「描けない」と自責の念を抱くこと辞め、描けないながらに描くという足掻きこそが自身の制作そのものであり、それを「肯定」することが「ポジティブ」な絵画であり、絵具も支持体も画面自体も等しく全てが一体となった「一つの有機的な絵画」に自ずと繋がっていくということなのでしょう。
西森が初期からこだわっている紙に描くということ、そして水彩やパステルのあわい色彩、それらが単に技法的な要因ではなく、より作品の本質、西森のイマジネーションそのものと一つの存在となるべく今回の作品は制作され、作家の一つの到達点を示すものとして発表されます。つきましては本状をご覧の上、展覧会をご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。

敬具
2012年8月
児玉画廊 小林 健


全文提供:Kodama Gallery | Kyoto
会期:2012.9.8~2012.10.13
時間:11:00-19:00
休日:Kodama Gallery | Kyoto
会場:Kodama Gallery | Kyoto
Last Updated on September 08 2012
 

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